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(前回からの続き)
あかんべーの男たち
こうして、彼女のこの上ない愛らしさが大変な評判になり、この谷の隅々にまで広まったのでした(*1)。
そしてこの噂は2人の男、クマウナとケアワア、の耳にも入りました。
2人はともに下瞼(したまぶた)が萎縮して、醜(みにく)い顔になっていました。
そして、マカへレイ(あかんべー)と言うあだ名で、人々に知られていました(N.1)。
彼女への想いを胸にワイキキへ
この男たちのどちらも、これまでカハラオプナにあったことなど、全くありませんでした。
それなのに2人は、彼女の噂(うわさ)を聞くうちに、彼女に恋してしまったのでした。
しかし自分たちが醜(みにく)いが故に、あえて彼女に直(じか)に会って、プロポーズしようとはしませんでした。
その代わりに彼らは、マイレ、ジンジャーさらにシダで レイ(花輪)を編みました(N.2)。
そのレイで着飾ると今度はワイキキの浜辺に繰り出して、サーフィンを楽しんだのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) マカヘレイ(makahelei):
マカヘレイとは、日本では眼瞼外反(がんけんがいはん)症と呼ばれる病気で、下瞼(まぶた)が外に反り返って「あかんべー」をしている状態になります。かつてのハワイでは、アウマクア(家族神)のカプを破った罰として発症する、と言われていました(S.M.Kamakau; The People of Old 90)。
(N.2) マイレ(maile), ジンジャー(ginger), シダ(ferns):
(N.2.1) マイレ:
マイレは、学名が "Alyxia stellata((同義語)Alyxia olivæformis)" の植物のハワイ名です。
マイレの葉は最も伝統的なレイの材料で、その香り高さが特徴です。レイの形状は輪ではなく、一本の紐(ひも)のように仕上げます。
今でも誕生日、結婚式、卒業式などに際して、このレイを贈ってお祝いします。
結婚式では花婿が身に着けるように、男性に贈られるのが一般的です。フラの世界ではマイレは神聖な植物で、フラの女神ラカ(Laka)に捧げられます。
(N.2.2) ジンジャー:
レイに使われるジンジャーの代表格は、ホワイト・ジンジャーとイエロー・ジンジャーです。
ジンジャーの花で作るレイは、手間がかかり高価ですが、その上品な美しさもまた格別です。
(N.2.3) シダ:
レイに使われるシダのハワイ名はパラパライ、和名イシカグマ、学名Microlepia strigosaです。
パラパライの葉だけでレイを作ったり、他の葉や花と一緒に編み込んだりします。フラでは、このレイを手首や足首に着けて踊ることも少なくありません。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.
(前回からの続き)
半ば神のような人
カハラオプナは幼い頃からカウヒの許嫁(いいなずけ)で、そのカウヒはコオラウ(モク)・カイルアの若い首長でした(*1)(N.1)。
彼の両親は、息子が将来「マノアのプリンセス」と結婚すると言う栄誉に、大変な気遣(きづか)いをしていました。
と言うのも彼女は半ば神のような血筋の人、とみなされていたからです。
そこで彼らはいつもその女性の食卓に、カイルアのポイと、カワイヌイの魚を送り届けていました(N.2)。
このように彼女は言わば、将来の夫から贈られた食物だけで育って来たのでした。
お目当ては 「マノアのプリンセス」
カハラオプナがうら若い女性に成長した時、その美しさは例えようもない程(ほど)でした。
そこでこの渓谷に住む人々は、ルアアレアの聖なる境内を訪ねたものでした。
そこはプロウロウ(立入禁止区域)の外側で、カハイアマノ(彼女の家)の隣にありました。
人々のお目当ては、家と泉の間を行き来する彼女でした。
その美しい姿を一目見ようと、集まった誰もが目を凝らしたのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) コオラウ, カイルア(Koolau, Kailua):
コオラウとは、オアフ島の最も東側にあり、コオラウ山脈と海に挟まれたモク(区域)の名称です。
カイルアとは、コオラウ・モクを構成する1つのアフプアアの名称で、マノア渓谷に最も近い位置にあります。
(N.2) カワイヌイ(Kawainui):
カワイヌイとは、かつてカイルアにあったフィッシュ・ポンド(養魚池)の名称で、ハワイ最大の淡水養魚池でした。
現在は湿地になっており、2005年にはハワイ州最大の湿地(Kawainui Marsh)として、ラムサール条約に登録されています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.
(前回からの続き)
カハラオプナの家
カハラオプナのために1つの家が建てられました(*1)。
その場所はカハイアマノで、ワイアケクアに向かう道の途中でした。
彼女はそこに、数人の従者と共に住みました。
家はドラセナの垣根(かきね)で、周囲を取り囲まれていました。
入口の門の両脇にはプロウロウ(カプの標識)が立てられ、敷地内への立入を禁止していました(N.1)。
プロウロウは短くて頑丈な棒で、先端には白いタパ布で覆ったボールが付いています。
そしてこの棒は、「敷地内に住んでいるのが、最高位の階級でかつ神聖な人である。」ことを示しています。
バラ色の光が家を覆う
カハラオプナは、幼い頃から大変な美人でした。
彼女の頬(ほお)はこのうえなく赤く、その顔は眩(まぶ)しいほどに輝いていました。
そこで彼女が家にいる時は、頬や顔から放たれる光が、
草ぶき屋根や壁の隙間から、家の外にまで差していました。
それは、あたかもバラ色の光が、彼女の家全体を覆っているようでした。
そして、四方八方に放たれる明るい光線は、家の上で絶えず踊っているように見えました。
今も彼女の魂が帰って来る
家の下の方に湧き出ている泉に、彼女が水浴に行く時は、
幾条もの光線が周囲に放たれ、彼女を取り囲むのでした。
それはちょうど神や聖人が発する光明を描いた、後光(ごこう)のようでした。
地元の人々は、「その輝く光は今でも、時としてカハイアマノで見ることが出来る。」 と主張します。
そしてその光こそが、「カハラオプナの魂が、彼女の古い家に戻っている証拠だ。」 と言います。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) プロウロウ(カプの標識)(puloulou (sign of kapu)):
プロウロウは立入禁止を示すカプの標識ですが、この標識には幾種類かあります。
そのなかで最もポピュラーなのは、ズバリ「KAPU」と書いた看板かも知れません。こちらはディズニーのアニメ「リロ・アンド・スティッチ(Lilo & Stitch)(2002年)」にも登場して話題になりました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.
(前回からの続き)
双子の子が養子に出る
アカアカとナレフアアカアカには、双子の子供がいました(*1)。
カハウカニという名の男の子と、カウアクアヒネという名の女の子でした。
この子らは生まれると直ぐに、アカアカの従兄弟(いとこ)2人のもとに養子に出されました。
2人は兄弟姉妹であり、1人は首長のコロワヒ、もう1人は女首長のポハクカラでした。
この子らは結ばれるべきだ
コロワヒは、男の子カハウカニ、すなわち「マノアの風」の世話をしました。
そしてポハクカラは、女の子カウアクアヒネ、あの有名な「マノアの雨」を意味する名の子、の世話をしました。
子供たちが成長した時、里親たちはこう心に決めたのでした。
「この子らは1つに結ばれるべきだ。」
カハラオプナの誕生
一方、当の子供たちは、これまで別々に育って来たので、
自分たちが双子だとは知らず、この結婚にも反対しませんでした。
そこで彼らは結婚し、2人の間に1人の女の子が生まれました。
そしてその女の子は、カハラオプナと呼ばれました。
雨と風が融合したマノア
このようにコロワヒとポハクカラは、双子の2人を結婚させることで
雨と風を永遠に融合させたのでした。
今やマノア渓谷は、この雨と風が上手く融合していることで有名です。
そしてこの融合により誕生したのが、彼女の時代の最高に美しい女性でした。
マノアの女性たちは、言わばこのマノアの雨と風に育てられた子たちです。
ですから大体において、カハラオプナの美しさを受け継いでいる、と言えるのです。
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.