ハワイの昔話の世界へ
ようこそ !
--- 😄 作業中です 😄 ---
1. 神 話
(1) マウイの偉業
(2) 女神ペレ
2. 民 話
(1) メネフネ短編集
(5) プナホウの泉 (9)
(6) オアフヌイ (13)
原典 Thos. G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales.
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1. 神 話
(1) マウイの偉業
(2) 女神ペレ
2. 民 話
(1) メネフネ短編集
(5) プナホウの泉 (9)
(6) オアフヌイ (13)
原典 Thos. G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales.
(前回からの続き )
愛するカアラとの別れ
さて意を決した英雄は、涙を流して泣く少女(カアラ)の、固く握っていた手を放しました(*1)。
彼の目は冷静で落ち着いていました。
しかし彼の閉じた口は、強く優しい愛の心の奥底、を表わしていました。
彼はこの短い別れよりも、もっと大きな悲哀がもたらす、うずくような痛みを感じたのです。
彼は彼女の小さな顔を、両手のひらで優しく抱えると、涙にむせぶ唇に、幾度も幾度もキスしました。
そして心を込めて彼女の手を強く握り締めると、大股で足早に歩き去ったのでした。
断崖上でカアラを見送る
カアラが石ころだらけの上り坂の小径(こみち)を、歩いていた時のことです。
その途中、彼女は愛する彼を一目見ようと、ちらっと振り向きました。
すると彼女の首長は、あの海に突き出た巨大な断崖の、一番高い岩の上に立っていました。
それから、彼女がもう少し歩いて振り返るとまだ、まだそこに彼が立っていました。
そして尾根の頂上にたどり着いて、いよいよ深い渓谷に下りようとした時、彼女は最後にもう一度だけ振り返って見ました。
すると依然として、愛するご主人は彼女を見上げていました。
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(前回からの続き )
あなたは私の生きる力
あの可愛らしいジャスミン(カアラ)は、彼の首に両腕を巻き付けました(*1)。
そして、彼の胸に頬(ほほ)を擦り寄せながら、ちらっと顔を見上げてこう言いました。
「おお私の首長よ。あなたは私に、生きる力と素晴らしい喜びを下さった。
あなたの息づかいは私の活力、
あなたの目は私の最も快く美しいもの、
あなたの胸は私の唯一の安らぎの場です。
そして私が遠く離れて行く時、その道中きっとあなたを、振り返り続けるでしょう。
そして後ろ髪を引かれる思いで、ゆっくりと進むことでしょう。
しかしあなたのもとに戻る時は、是非とも翼を手に入れましょう。
--- ご主人様のもとに私を運んでくれる翼を。」
行きも帰りも空を飛ぶのだ
「そうだ、我が愛(いと)しの恋人よ。」 とカアイアリイが言いました。
「あなたは飛ぶのだ。だが帰りと同じように、 行きも素早く飛んで行くのだ。
行きも帰りも両方共、あなたは私を目指して飛ぶのだ。
あなたが行ってしまった後、きっと私は柔らかいオフア(小魚)を槍で突き、ヤムとバナナを焼くだろう(N.1)。
それから、ヒョウタン容器を美味(おい)しい水で満たそう。
そしてあなたが戻った時には、愛するあなたに食べさせてあげよう。
だからその時、私には、あなたの愛をこめた眼差しを下さい!」
もしも彼女が戻らなければ---
「さあ、オプヌイ! あなたの子を連れて行きなさい。
あなたは彼女に命を与えてくれた。
しかし今は、彼女が私に命を与えているのです。
だから太陽が2回昇る前に、元気な彼女を連れ戻して下さい。
もしも、彼女がすみやかに戻らなければ、きっと私は死ぬでしょう。
しかしその前に、私はあなたを殺さなければなりません。
ですから、おー、オプヌイよ! 大急ぎで出発して、大急ぎで戻って来て下さい。
そして、私の命であり愛である彼女を、私のもとに連れ戻して下さい。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ヤム(yam):
ヤム(英名)とは、ヤマノイモ属(Dioscorea)の中の塊根を食用とする種の総称です。ヤムの中でハワイで最も代表的な種が Dioscorea alata(学名)であり、そのハワイ名はウヒ(uhi)、和名はダイジョです。
かつてこのヤムを食べる時は、イム(imu)と呼ばれる地中オーブンで焼きました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(前回からの続き )
カアイアリイが愛を語る
英雄はたくましい片腕を若き恋人に絡(から)ませて、しっかりと抱きしめました(*1)。
そして彼女の目をじっと見つめながら愛情を込めた手で、輝く髪を額(ひたい)から払い除(の)けました。
こうして彼は、自らの生きる糧(かて)とも言えるカアラに、話しかけました。
「おお、私の愛(いと)しい人よ、貴方(あなた)無しでは、一体どうして生きて行けようか?
-- たとえ、太陽が東から出て西に沈むまでの、今日一日間だけであっても。
貴方は私の生きる力なのです。
もしも貴方がいなければ、私は海辺に打ち上げられた魚のように、息を切らして死んでしまうでしょう。
いや違う! 私にそんな風に言わせないでくれ。
カアイアリイは首長だ、これまで多くの人やサメと戦って来たのだ。
だから絶対に、女の子みたいなことを、言ってはいけないのだ。
母を見捨てられようか?
私も、自分の母を愛している。
彼女はコハラの谷で、私の帰りを待っている。
それを考えれば、あなたの母の気持ちを無視するなど、とても出来ない。
彼女は最後にもう一度、あなたの愛らしい顔と優しい姿を見たいに違いない。
なぜなら、あなたに食べ物を与えて育て上げたのが、あなたの母なのだから。
さらに今となっては、それは私のためでもあったのだ。
さあ行きなさい、私のカアラよ!
そしてあなたの首長である私は、あなたの愛を渇望しながら、じっと座って寝ずの番をしよう。
--あなたが私の腕の中に再び戻って来るまでは。」
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(前回からの続き )
父が母の危篤を告げる
さてその朝、血色良い茶色の頬(ほお)の少女(カアラ)は、眩(まぶ)しい愛の兆(きざ)しに顔を紅潮させながら、 ご主人(カアイアリイ)の小屋の入口に立ちました。
彼女の顔面は、太陽の光を受けてキラキラと輝いていました。
すると、彼女の父が粗末な装いで歩み出て、こう言いました。
「我が子よ、お前の母は今マハナで、息絶えようとしている(N.1)。
だから是非とも、お前の愛情を母に注いであげてくれ。
彼のカヌーが偉大な地(ハワイ島コハラ)へお前を連れて行く前に、もう一度、母に会ってやって欲しいのだ。」
母を見舞に行かせて下さい
「ああ、何と悲しいことでしょう!」
と優しい子(カアラ)が言いました。
「一体いつから、カラ二(お母様)は病気なの?
主人が槍で捕まえたこの大きくて美味しい魚を、お母様に持って行ってあげましょう。
そして私がお母様のうずく手足を揉(も)みほぐせば、愛情溢(あふ)れる娘の手技が効(き)いて、きっとまた元気になるでしょう。
大丈夫。主人は私が行くことを、許してくれるでしょう。
違いますか? おお、カアイアリイよ。
最期にもう一度、母を抱きしめてあげたいのです。
ですからどうか、母のもとに行かせて下さい。
月があの湾を2回渡り終えるまでには、必ず戻って来ますから(N.2)。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) マハナ(Mahana):
マハナは、ラナイ島北部にあるアフプアア(行政区画)の名称。カアラが住むカウノル村は島の南西部にあるので、マハナは島の反対側です。
(N.2) 月があの湾を2回渡り終える( the moon has twice spanned the bay):
晴れた日の夜、湾の水面に映る月は、あたかも湾を渡るように動きます。
そしてこの月は1晩に1回だけ湾を渡るので、ここで言う「2回渡り終える」とは、2晩が過ぎることを示しています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(前回からの続き )
カアラの父が嘆く
これを見て、頑丈そうだが白髪混じりの島の男が、泣きながら声を張り上げて訴えました(*1)。
「カアラよ、私の子カアラが行ってしまった。
私がオフアを槍で突く漁から帰った時、一体誰が、私の手足の疲れを癒してくれるのだ(N.1)?
そして、ちょうどあのオロワルの首長のように、私に娘がいなくなったら、誰がタロやパンの木の実をくれると言うのだ(N.2)?
ここは、娘をあの首長(カアイアリイ)から、隠さなければいけない。
さもなければ、自分が死ぬことになるだろう。」
こうしてカアラの父オプヌイは、悲嘆に暮れてしまいました。
父オプヌイの怒りと決意
しかし激しい憎しみが、オプヌイの心を突き動かしました。
彼の友人はマウナレイの戦いで、崖の向こうに追いやられたのです。
そして彼自身も、あの虐殺者に服従し媚(こ)びへつらいながら、生きて来たのでした。
そこで今度もまた、彼は自らの憎悪の念を心の中に隠すことにしました。
そして娘を救う計画を練り上げ、その中で殺人者の邪魔をして、家族を逃がそうとしたのです。
彼は心ひそかに、こう言いました。
「娘を海の中に隠そう。
その場所は誰も知らない。
それを知るのは唯一、魚の神々、そして私だけだ。
そこでは、永遠(とわ)に鳴り響く砕け波が、カアラの上に押し寄せるであろう。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) オフア(ohua):
オフアとは、ヒナレア(hīnālea), フムフム(humuhumu), ウフ(uhu)など、色々な魚の「稚魚」を意味するハワイ語です
そして、上記の魚の中でも特に人気があるフムフム(学名: Rhinecanthus rectangulus)は、2006年にハワイ州の魚に指定されました(*2)。
(N.2) オロワル(Olowalu):
このお話しの舞台ラナイ島の東隣には、かつて栄えたマウイ島があります。島の中心は西マウイにあるラハイナ(Lahaina)で、その南東約6kmにあるのがオロワルです。
このオロワルの地は、かつてタロとパンの木の林(の豪華な日陰)で知られていました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) Hawaii Gov.(2006): Hawaii State Legislature 2006 Legislative Session, HB1982 HD2 SD1.
(前回からの続き )
大王がカアイアリイの勝利を宣言する
「よーし!」 と 大王が叫びました(*1)。
「我らの若者(カアイアリイ)は、カネコアのように強いぞ(N.1)。
さあ、我らの娘さん(カアラ)に、彼女が愛する人の手足をもんで、癒してもらおう!
彼の皮膚を叩いたり、関節を押えたり、また、背中を揉(も)んだりしてもらおう。
--愛情をこめた握りで、そして、ロミロミのタッチで(N.2)。
暫(しばら)くすれば、超豪華な焼き料理が出て来るであろうし、フラ・ダンスや歌も始まるだろう。
そしてこの宴会が終わったら、その時は、彼らを2人だけにしてやろう。」
女性たちが歌いヒョウタンを操(あやつ)る
女性たちは1列に並んで、しゃがみ込んでいます。
彼女らはお気に入りの旋律を繰り返して、戦いに勝って愛する人を獲得した者を、褒(ほ)め称(たた)えているのです。
右手にはフラのヒョウタンを握り、その中に入っている小石で、カタカタ音を立てています(N.3)。
それから空高く放り投げたり、振り回したり、揺らせたり、掌(てのひら)で叩(たた)いたり、さらにはマットにドンと叩きつけたりします。
そして今度は、柔軟に関節を動かして腰を振り回します。
この激しい踊りは、腰を上げたり、ねじったりしながら、また揺らせたり、歌ったりしながら続きます。
カアラたちが踊り始める
カアラは、若い女性たちの一団と共に立ち上がりました。
こちらは王たちからの贈り物で、大切に庇護(ひご)されています。
彼女たちは、花輪をからませた体を揺らせながら、陽の光に輝く腕でポーズをとりました。
そして葉のスカートを手で揺り動かしながら、隠れていたふくよかな大腿(ふともも)を見せました。
英雄がカアラを連れ去る
これをじっと見つめていた男たちが、燃え上がります。
炎のように情熱的な眼差しで、今日の英雄カアイアリイが飛ぶように走り、愛するカアラを抱きしめます。
そしてこう叫びながら、彼女を連れてその場を去って行きます。
「きみは、ハワイ島コハラの僕の家で、永遠に僕だけのために踊るのだ!」
(次回に続く )
(ノート)
(N.1) カネコア(Kanekoa):
カネコアは、カメハメハ大王(Ⅰ世)の父親であったケオウア(Keoua)の、異母兄弟だったとも言われています(*2)。
(N.2) ロミロミ(Lomilomi):
ロミロミはハワイの伝統的なマッサージで、ハワイアン・マッサージなどとも呼ばれます。指、掌(てのひら)、腕、関節(肘,膝)、足、棒・石などを使って、患部を擦(こす)ったり、押したり、揉(も)んだりします。
(N.3) フラのヒョウタン(hula gourd):
フラのヒョウタンとは、瓢箪(ヒョウタン)で作ったフラ用の楽器(ドラム)を指しています。ハワイ語ではイプ(Ipu)、イプへケ(Ipu heke)などと呼ばれます。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) Kapiikauinamoku (Sammy Amalu) (1955): The Story of Hawaiian Royalty. Honolulu Advertiser, Sept.11 - Dec.20, 1955.
(前回からの続き )
攻撃のチャンスを狙う
そして今や、彼らは両腕を高くかざして、互いに相手を引き寄せ合いながら、満身の力を込めて両手のひらを広げます(*1)。
それはちょうど、筋骨隆々としたカニのハサミが、獲物にぐいっと掴(つか)みかかろうとしているかのようです。
彼らは相手に致命的なダメージを与えようと、組み合いに持ち込むチャンスを狙(ねら)っているのです。
攻めるマイロウをカアイアリイが捕える
さあ、傷痕(しょうこん)のある幼女絞殺魔が、若き槍の達人の喉(のど)をめがけて、素早く跳躍しました(N.1)。
槍の達人は襲いかかる相手の腕をスッと捕えると、一瞬のうちにヘシ曲げて、自らの腕の中に抱え込んでしまいます。
そして間髪(かんはつ)入れずに、致命的な殴打(おうだ)を浴びせて、 敵の肩と腕の骨をへし折ってしまいます。
途方に暮れたボーン・ブレイカーは、激怒して残された片手を固く握りしめます。
しかし若者の頑強な両腕は、抑え難い怒りで張り詰めていたので、相手の残る片腕をも捩(ねじ)り折ってしまったのでした。
血みどろの死体と化す
打ちのめされた残酷者は、両腕をだらりと垂(た)らして逃げに転じます。
しかしすぐさま、若者の憎悪が残酷者に襲いかかり、相手の喉をぐいっとつかみます。
そして不運な悪党を押し倒すと、カアラの英雄(カアイアリイ)は、相手の背に膝(ひざ)を押し当てました。
さらにそり返った背骨をしっかりと膝で押さえ込むと、今度はそれを強く引いては、ぐいと押し返し始めました。
英雄はこれを背骨の関節群が、ポキッと音を立てて壊れるまで続けたのです。
こうして、乙女(おとめ)を襲う恐ろしい絞殺魔(こうさつま)は、骨を(へし)折られた血みどろの死体と化し、マット上にうつ伏せに倒れたのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1)幼女絞殺魔(child-strangler), 槍の達人(spear-man):
幼女絞殺魔とは「マイロウ」を指し、また、槍の達人とは「カアイアリイ」を指しています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.