夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

----- 大 目 次 -----

ハワイの昔話の世界へ

ようこそ !

 

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1. 神 話

(1) マウイの偉業

 1) 太陽を捕まえる (4)

 2) 火の起源 (5)

 

(2) 女神ペレ

 1) ペレと大洪水 (4)

 2) ペレとカハワリ (7)

 

2. 民 話

(1) メネフネ短編集

(2) ヒクとカウェル (12)

(3) カペエペエカウイラ (18)

(4) カハラオプナ (29)

(5) プナホウの泉 (9)

(6) オアフヌイ (13)

 

原典  Thos. G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales.

 

 

163 カアラとカアイアリイ:(17) 愛し合う2人の別れ

(前回からの続き )

愛するカアラとの別れ

さて意を決した英雄は、涙を流して泣く少女(カアラ)の、固く握っていた手を放しました(*1)。

 

彼の目は冷静で落ち着いていました。

しかし彼の閉じた口は、強く優しい愛の心の奥底、を表わしていました。

 

彼はこの短い別れよりも、もっと大きな悲哀がもたらす、うずくような痛みを感じたのです。

 

彼は彼女の小さな顔を、両手のひらで優しく抱えると、涙にむせぶ唇に、幾度も幾度もキスしました。

そして心を込めて彼女の手を強く握り締めると、大股で足早に歩き去ったのでした。

 

断崖上でカアラを見送る

カアラが石ころだらけの上り坂の小径(こみち)を、歩いていた時のことです。

 

その途中、彼女は愛する彼を一目見ようと、ちらっと振り向きました。

すると彼女の首長は、あの海に突き出た巨大な断崖の、一番高い岩の上に立っていました。

 

それから、彼女がもう少し歩いて振り返るとまだ、まだそこに彼が立っていました。

 

そして尾根の頂上にたどり着いて、いよいよ深い渓谷に下りようとした時、彼女は最後にもう一度だけ振り返って見ました。

すると依然として、愛するご主人は彼女を見上げていました。

(次回に続く)

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

 

 

162 カアラとカアイアリイ:(16) 行きも帰りも空を飛べ

(前回からの続き )

あなたは私の生きる力

あの可愛らしいジャスミン(カアラ)は、彼の首に両腕を巻き付けました(*1)。

そして、彼の胸に頬(ほほ)を擦り寄せながら、ちらっと顔を見上げてこう言いました。

 

 

「おお私の首長よ。あなたは私に、生きる力と素晴らしい喜びを下さった。

 

あなたの息づかいは私の活力、

あなたの目は私の最も快く美しいもの、

あなたの胸は私の唯一の安らぎの場です。

 

そして私が遠く離れて行く時、その道中きっとあなたを、振り返り続けるでしょう。

そして後ろ髪を引かれる思いで、ゆっくりと進むことでしょう。

 

しかしあなたのもとに戻る時は、是非とも翼を手に入れましょう。

--- ご主人様のもとに私を運んでくれる翼を。」

 

行きも帰りも空を飛ぶのだ

「そうだ、我が愛(いと)しの恋人よ。」 とカアイアリイが言いました。

 

「あなたは飛ぶのだ。だが帰りと同じように、 行きも素早く飛んで行くのだ。

行きも帰りも両方共、あなたは私を目指して飛ぶのだ。

 

あなたが行ってしまった後、きっと私は柔らかいオフア(小魚)を槍で突き、ヤムとバナナを焼くだろう(N.1)。

それから、ヒョウタン容器を美味(おい)しい水で満たそう。

 

 

そしてあなたが戻った時には、愛するあなたに食べさせてあげよう。

だからその時、私には、あなたの愛をこめた眼差しを下さい!」

 

もしも彼女が戻らなければ---

「さあ、オプヌイ! あなたの子を連れて行きなさい。

 

あなたは彼女に命を与えてくれた。

しかし今は、彼女が私に命を与えているのです。

 

だから太陽が2回昇る前に、元気な彼女を連れ戻して下さい。

 

もしも、彼女がすみやかに戻らなければ、きっと私は死ぬでしょう。

しかしその前に、私はあなたを殺さなければなりません。

 

ですから、おー、オプヌイよ! 大急ぎで出発して、大急ぎで戻って来て下さい。

そして、私の命であり愛である彼女を、私のもとに連れ戻して下さい。」

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) ヤム(yam):

ヤム(英名)とは、ヤマノイモ属(Dioscorea)の中の塊根を食用とする種の総称です。ヤムの中でハワイで最も代表的な種が Dioscorea alata(学名)であり、そのハワイ名はウヒ(uhi)、和名はダイジョです。

かつてこのヤムを食べる時は、イム(imu)と呼ばれる地中オーブンで焼きました。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

 

 

161 カアラとカアイアリイ:(15) 行きなさい、愛するカアラよ!

(前回からの続き )

カアイアリイが愛を語る

英雄はたくましい片腕を若き恋人に絡(から)ませて、しっかりと抱きしめました(*1)。

そして彼女の目をじっと見つめながら愛情を込めた手で、輝く髪を額(ひたい)から払い除(の)けました。

 

こうして彼は、自らの生きる糧(かて)とも言えるカアラに、話しかけました。

 

「おお、私の愛(いと)しい人よ、貴方(あなた)無しでは、一体どうして生きて行けようか?

-- たとえ、太陽が東から出て西に沈むまでの、今日一日間だけであっても。

 

貴方は私の生きる力なのです。

もしも貴方がいなければ、私は海辺に打ち上げられた魚のように、息を切らして死んでしまうでしょう。

 

いや違う! 私にそんな風に言わせないでくれ。

 

カアイアリイは首長だ、これまで多くの人やサメと戦って来たのだ。

だから絶対に、女の子みたいなことを、言ってはいけないのだ。

 

母を見捨てられようか?

私も、自分の母を愛している。
彼女はコハラの谷で、私の帰りを待っている。

 

 

それを考えれば、あなたの母の気持ちを無視するなど、とても出来ない。

彼女は最後にもう一度、あなたの愛らしい顔と優しい姿を見たいに違いない。

 

なぜなら、あなたに食べ物を与えて育て上げたのが、あなたの母なのだから。

さらに今となっては、それは私のためでもあったのだ。

 

さあ行きなさい、私のカアラよ!

 

そしてあなたの首長である私は、あなたの愛を渇望しながら、じっと座って寝ずの番をしよう。

--あなたが私の腕の中に再び戻って来るまでは。」

 

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

 

 

160 カアラとカアイアリイ:(14) 母の危篤を知る

(前回からの続き )

父が母の危篤を告げる

さてその朝、血色良い茶色の頬(ほお)の少女(カアラ)は、眩(まぶ)しい愛の兆(きざ)しに顔を紅潮させながら、 ご主人(カアイアリイ)の小屋の入口に立ちました。

彼女の顔面は、太陽の光を受けてキラキラと輝いていました。

 

すると、彼女の父が粗末な装いで歩み出て、こう言いました。

「我が子よ、お前の母は今マハナで、息絶えようとしている(N.1)。

 

だから是非とも、お前の愛情を母に注いであげてくれ。

彼のカヌーが偉大な地(ハワイ島コハラ)へお前を連れて行く前に、もう一度、母に会ってやって欲しいのだ。」

 

 

母を見舞に行かせて下さい

「ああ、何と悲しいことでしょう!」

と優しい子(カアラ)が言いました。

 

「一体いつから、カラ二(お母様)は病気なの?

主人が槍で捕まえたこの大きくて美味しい魚を、お母様に持って行ってあげましょう。

 

そして私がお母様のうずく手足を揉(も)みほぐせば、愛情溢(あふ)れる娘の手技が効(き)いて、きっとまた元気になるでしょう。

 

大丈夫。主人は私が行くことを、許してくれるでしょう。

違いますか? おお、カアイアリイよ。

 

最期にもう一度、母を抱きしめてあげたいのです。

ですからどうか、母のもとに行かせて下さい。

 

月があの湾を2回渡り終えるまでには、必ず戻って来ますから(N.2)。」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) マハナ(Mahana):

マハナは、ラナイ島北部にあるアフプアア(行政区画)の名称。カアラが住むカウノル村は島の南西部にあるので、マハナは島の反対側です。

(N.2) 月があの湾を2回渡り終える( the moon has twice spanned the bay):

晴れた日の夜、湾の水面に映る月は、あたかも湾を渡るように動きます。

そしてこの月は1晩に1回だけ湾を渡るので、ここで言う「2回渡り終える」とは、2晩が過ぎることを示しています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

 

 

159 カアラとカアイアリイ:(13) 父の怒りと決意

(前回からの続き )

カアラの父が嘆く

これを見て、頑丈そうだが白髪混じりの島の男が、泣きながら声を張り上げて訴えました(*1)。

 

「カアラよ、私の子カアラが行ってしまった。

私がオフアを槍で突く漁から帰った時、一体誰が、私の手足の疲れを癒してくれるのだ(N.1)?

 

 

そして、ちょうどあのオロワルの首長のように、私に娘がいなくなったら、誰がタロやパンの木の実をくれると言うのだ(N.2)?

 

ここは、娘をあの首長(カアイアリイ)から、隠さなければいけない。

さもなければ、自分が死ぬことになるだろう。」

 

こうしてカアラの父オプヌイは、悲嘆に暮れてしまいました。

 

父オプヌイの怒りと決意

しかし激しい憎しみが、オプヌイの心を突き動かしました。

 

彼の友人はマウナレイの戦いで、崖の向こうに追いやられたのです。

そして彼自身も、あの虐殺者に服従し媚(こ)びへつらいながら、生きて来たのでした。

 

そこで今度もまた、彼は自らの憎悪の念を心の中に隠すことにしました。

そして娘を救う計画を練り上げ、その中で殺人者の邪魔をして、家族を逃がそうとしたのです。

 

彼は心ひそかに、こう言いました。

「娘を海の中に隠そう。

 

その場所は誰も知らない。

それを知るのは唯一、魚の神々、そして私だけだ。

 

そこでは、永遠(とわ)に鳴り響く砕け波が、カアラの上に押し寄せるであろう。」

 

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) オフア(ohua):

オフアとは、ヒナレア(hīnālea), フムフム(humuhumu), ウフ(uhu)など、色々な魚の「稚魚」を意味するハワイ語です

そして、上記の魚の中でも特に人気があるフムフム(学名: Rhinecanthus rectangulus)は、2006年にハワイ州の魚に指定されました(*2)。

 


(N.2) オロワル(Olowalu):

このお話しの舞台ラナイ島の東隣には、かつて栄えたマウイ島があります。島の中心は西マウイにあるラハイナ(Lahaina)で、その南東約6kmにあるのがオロワルです。

このオロワルの地は、かつてタロとパンの木の林(の豪華な日陰)で知られていました。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Hawaii Gov.(2006): Hawaii State Legislature 2006 Legislative Session, HB1982 HD2 SD1.

 

 

158 カアラとカアイアリイ:(12) さあ勝利の宴だ

(前回からの続き )

大王がカアイアリイの勝利を宣言する

「よーし!」 と 大王が叫びました(*1)。


「我らの若者(カアイアリイ)は、カネコアのように強いぞ(N.1)。

さあ、我らの娘さん(カアラ)に、彼女が愛する人の手足をもんで、癒してもらおう!

 

彼の皮膚を叩いたり、関節を押えたり、また、背中を揉(も)んだりしてもらおう。

--愛情をこめた握りで、そして、ロミロミのタッチで(N.2)。

 

暫(しばら)くすれば、超豪華な焼き料理が出て来るであろうし、フラ・ダンスや歌も始まるだろう。

そしてこの宴会が終わったら、その時は、彼らを2人だけにしてやろう。」

 

女性たちが歌いヒョウタンを操(あやつ)る

女性たちは1列に並んで、しゃがみ込んでいます。

彼女らはお気に入りの旋律を繰り返して、戦いに勝って愛する人を獲得した者を、褒(ほ)め称(たた)えているのです。

 

右手にはフラのヒョウタンを握り、その中に入っている小石で、カタカタ音を立てています(N.3)。

それから空高く放り投げたり、振り回したり、揺らせたり、掌(てのひら)で叩(たた)いたり、さらにはマットにドンと叩きつけたりします。

 

そして今度は、柔軟に関節を動かして腰を振り回します。

この激しい踊りは、腰を上げたり、ねじったりしながら、また揺らせたり、歌ったりしながら続きます。

 

 

カアラたちが踊り始める

カアラは、若い女性たちの一団と共に立ち上がりました。

こちらは王たちからの贈り物で、大切に庇護(ひご)されています。

 

彼女たちは、花輪をからませた体を揺らせながら、陽の光に輝く腕でポーズをとりました。

そして葉のスカートを手で揺り動かしながら、隠れていたふくよかな大腿(ふともも)を見せました。

 

英雄がカアラを連れ去る

これをじっと見つめていた男たちが、燃え上がります。

炎のように情熱的な眼差しで、今日の英雄カアイアリイが飛ぶように走り、愛するカアラを抱きしめます。

 

そしてこう叫びながら、彼女を連れてその場を去って行きます。

「きみは、ハワイ島コハラの僕の家で、永遠に僕だけのために踊るのだ!」

(次回に続く )


(ノート)

(N.1) カネコア(Kanekoa):

カネコアは、カメハメハ大王(Ⅰ世)の父親であったケオウア(Keoua)の、異母兄弟だったとも言われています(*2)。

(N.2) ロミロミ(Lomilomi):

ロミロミはハワイの伝統的なマッサージで、ハワイアン・マッサージなどとも呼ばれます。指、掌(てのひら)、腕、関節(肘,膝)、足、棒・石などを使って、患部を擦(こす)ったり、押したり、揉(も)んだりします。

(N.3) フラのヒョウタン(hula gourd):

フラのヒョウタンとは、瓢箪(ヒョウタン)で作ったフラ用の楽器(ドラム)を指しています。ハワイ語ではイプ(Ipu)、イプへケ(Ipu heke)などと呼ばれます。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Kapiikauinamoku (Sammy Amalu) (1955): The Story of Hawaiian Royalty. Honolulu Advertiser, Sept.11 - Dec.20, 1955.

 

 

157 カアラとカアイアリイ:(11) マイロウが倒れる

(前回からの続き )

攻撃のチャンスを狙う

そして今や、彼らは両腕を高くかざして、互いに相手を引き寄せ合いながら、満身の力を込めて両手のひらを広げます(*1)。

それはちょうど、筋骨隆々としたカニのハサミが、獲物にぐいっと掴(つか)みかかろうとしているかのようです。

 

彼らは相手に致命的なダメージを与えようと、組み合いに持ち込むチャンスを狙(ねら)っているのです。

 

攻めるマイロウをカアイアリイが捕える

さあ、傷痕(しょうこん)のある幼女絞殺魔が、若き槍の達人の喉(のど)をめがけて、素早く跳躍しました(N.1)。

 

槍の達人は襲いかかる相手の腕をスッと捕えると、一瞬のうちにヘシ曲げて、自らの腕の中に抱え込んでしまいます。

そして間髪(かんはつ)入れずに、致命的な殴打(おうだ)を浴びせて、 敵の肩と腕の骨をへし折ってしまいます。

 

途方に暮れたボーン・ブレイカーは、激怒して残された片手を固く握りしめます。


しかし若者の頑強な両腕は、抑え難い怒りで張り詰めていたので、相手の残る片腕をも捩(ねじ)り折ってしまったのでした。

 

 

血みどろの死体と化す

打ちのめされた残酷者は、両腕をだらりと垂(た)らして逃げに転じます。

しかしすぐさま、若者の憎悪が残酷者に襲いかかり、相手の喉をぐいっとつかみます。

 

そして不運な悪党を押し倒すと、カアラの英雄(カアイアリイ)は、相手の背に膝(ひざ)を押し当てました。

さらにそり返った背骨をしっかりと膝で押さえ込むと、今度はそれを強く引いては、ぐいと押し返し始めました。

 

英雄はこれを背骨の関節群が、ポキッと音を立てて壊れるまで続けたのです。

 

こうして、乙女(おとめ)を襲う恐ろしい絞殺魔(こうさつま)は、骨を(へし)折られた血みどろの死体と化し、マット上にうつ伏せに倒れたのでした。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1)幼女絞殺魔(child-strangler), 槍の達人(spear-man):

幼女絞殺魔とは「マイロウ」を指し、また、槍の達人とは「カアイアリイ」を指しています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.