夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

----- 大 目 次 -----

ハワイの昔話の世界へ

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原典  Thos. G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales.

 

 

200 カリウワア:(5) 生い茂る樹木たち

(前回からの続き)

自然観察を愛する人なら誰にとっても、この滝に通じる小径(こみち)は興味溢(あふ)れる場所です(*1)。

 

我々がこの渓谷の一番奥で馬から降りて、徒歩で山に入り始めたその時から、歩を進める度(たび)に、新たなそして他では見られない美しい光景が現れます。

 

見たこともないほど青々と生い茂った新緑が地面を覆っています。

 

 

そして所々に、美しくつややかなオヒア、野生のリンゴの木(Eugenia malaccensis)、の葉が人気(ひとけ)の無いこの地にまで射し込んだ、ほんの数条の光線さえも、その大半を遮(さえぎ)ってしまいます(N.1)。

 

もう少し先に進むと、優雅な竹が細長い茎をかなりの高さまで伸ばし、その黒ずんで艶(つや)のある葉がククイ、キャンドル ナッツ(Aleurites moluccana)、の銀色に輝く葉と混ざり合っています(N.2)。

 

 

これらの植物が一体となって、その両脇に重々しく崇高に聳(そび)える、黒い断崖絶壁と著しい対照を成しています。

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) 野生のリンゴの木(native apple-tree):
原文では "native apple-tree"と表記されていますが、このリンゴは 在来種(native)ではなく、ポリネシア人が持ち込んだ カヌー・プランツ(canoe plant)の一種です。その英名は 「マウンテン・アップル(mountain apple )」、和名は「マレー・フトモモ」、そして学名は "Syzygium malaccense, (同義語)Eugenia malaccensis" です。
(N.2) ククイ(kukui):
ククイハワイ語名で、その英名はキャンドル・ナッツ(candlenut)、 和名は「ククイノキ」、そして学名は "Aleurites moluccanus, (同義語)Aleurites moluccana" です。
こちらもオヒアと同じカヌー・プランツで、その実は油分を多く含むことから、かつては灯火として良く利用され、現在でも 「ハワイ州の木」として人々に親しまれています。

 

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 18. Kaliuwaa. Scene of the Demigod Kamapuaa's Escape from Olopana. From "The Hawaiian Spectator", p.193-199.

 

 

199 カリウワア:(4) 滝より先には進めない

(前回からの続き)

素晴らしい滝に着いた

滝の高さは20〜30mあり、水は落下直前に断崖上の大変狭い場所に流入加圧され、その岩の間からどっと噴き出しています(*1)。

中でも水量が多い時には、この滝は本当に素晴らしく、あたかも水の膜のようです。

 

 

地元の人々の話では、この上流には滝が2つあるそうですが、川の流路が急に曲がっているために視界が妨げられ、その2つとも下からは見えません。

 

その垂直高さは共に、我々が見た滝よりも、はるかに高いと言われています。

このうち上流側の滝は、3km以上も離れた海岸沿いの道路から見れますが、その高さは、入手情報から推定して、60〜90mは間違いなくあります。

 

 

水源を目指すのは難しい

さて、目の前に立ちはだかる斜面は到底登れないので、「水源に向けてさらに流れを上る喜び」 は、ここで奪われてしまいました。

 

それが出来る方法は唯一つ、滝の上の平原からスタートして、枝尾根の1つに沿って進むのです。

 

しかし、たとえこの方法であっても、深く生い茂った木々や絡(から)み合う藪(やぶ)に、行く手(ゆくて)を遮(さえぎ)られるので、骨が折れ疲れ果てることでしょう。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 18. Kaliuwaa. Scene of the Demigod Kamapuaa's Escape from Olopana. From "The Hawaiian Spectator", p.193-199.

 

 

198 カリウワア:(3) もう一つの垂直溝を観察する

(前回からの続き)

もう一つの似た断崖に着く
現在、水が流れている小川に戻ると、我々は再び滝に通じる道を辿(たど)って進み始めました(*1)。

 

しかし、そう遠くまで進まないうちに、もう一つの断崖に着きました。
それは小川の左側にあり、多くの面で先ほどの断崖と似ていましたが、遥(はる)かに大きく高さもありました。

 

これら巨大な垂直溝のいずれか一方を注意深く調査すれば、それを形成した自然界の作用が、間違いなく明らかになるでしょう。

 

 

垂直溝を観察する
溝の幅は上端よりも下端のほうが、かなり広くなっています。
下端が広いのは、かつて、目もくらむほど高い断崖上から放出されていた水の膜が、落下中に分散して広がったためです。

 

この下端における溝のサイズは幅が約6m、そして深さは約4.2mです。
しかしその深さと幅は、下端から上端に向けて緩やかに減少しており、また岩肌はすり減って滑らかになり、あたかも芸術家がノミで彫ったかのようです。

 

コケや小さな草が、岩の割れ目に堆積したほんの僅かな土から芽を出していますが、岩を覆い隠して見えなくするにはまだ不十分です。

 

「元々流れていた溝から他の場所へ、水の流れが移った原因。」 を解明するのは、大変骨の折れる仕事でしょう。
そこで、このユニークな好奇心は残したまま、さらに数メートル先に進んだその時、我々は遂にあの滝に到着したのでした。

(次回に続く)

 

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 18. Kaliuwaa. Scene of the Demigod Kamapuaa's Escape from Olopana. From "The Hawaiian Spectator", p.193-199.

 

 

 

197 カリウワア:(2) 滝が残した芸術作品

(前回からの続き)

カヌーのような地形

この流れに沿って400mほど上ると、地元の人々がワア(カヌー)と呼んでいる、珍しい地形をガイドが紹介してくれます(*1)。

 

そして右に曲がると、今度は涸(か)れ川を上って行きます。

かつてそこには、かなりの水が流れていたに違いありませんが、現在の流れからは45mほど離れています。

 

滝が作った溝は完璧

ここで我々は、目の前に垂直にそそり立つ高さ60mほどの硬い岩の壁(断崖)に、行く手を遮(さえぎ)られます。

断崖上の流れの全てが、ここで美しい滝に姿を変えて、流れ落ちてしまったに違いありません。

 

この垂直にそそり立つ壁は、長年の水の流れにより溝形にすり減り、しかもその形状は非の打ち所が無いほど完璧です。

 

そして我々はこの溝を作った水の流れが無い状態で、この素晴らしく壮大な光景を見上げるので、ついついこんな風に思ってしまいます。

「私は今、ある素晴らしい芸術作品に見入っているのだ。」

 

 

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 18. Kaliuwaa. Scene of the Demigod Kamapuaa's Escape from Olopana. From "The Hawaiian Spectator", p.193-199.

 

 

196 カリウワア:(1) 狭い谷の底を進む

(新しいお話の始め)

カリウワアの美しさは島一番

オアフ島の風上側でライエから数マイル東にあるのが、カリウワア渓谷そしてカリウワアの滝です(*1)。

 

 


そこはこの島で最も美しく、ロマンティックな場所の1つとして注目されており、また伝承の世界では、地元で関心が高い以上の何かがある、としてよく知られています。

 

この渓谷を3kmほど登ると突然、切り立った山脈の足元にぶつかり、行き止まりになります。

この山脈はオアフ島の風上側にあり、そのほぼ全域に渡って延々と伸びています。

 

唯一の例外は1つの深く狭い谷で、ここを通って細い小川が山脈を横切り、かなり定期的に海面まで流れ出しています。

 

狭い谷の底を進む

この渓谷の一番奥で馬から降りると、旅人は幅が15〜18mも無い狭い山道に入って行きます。

幾度となく流れを渡っては再び渡りながら、曲がりくねった道を先へ先へと進んで、遂に彼は目指す山の中に入って来たようです。

 

両側の壁面は硬い岩から成り、高さは60〜90mですが所により120mもあり、空高く垂直にそそり立っています。

そのため頭上に見える空はほんの僅(わず)かで、あたかも細長い帯のようです。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 18. Kaliuwaa. Scene of the Demigod Kamapuaa's Escape from Olopana. From "The Hawaiian Spectator", p.193-199.

 

 

195 アイ カナカ:(10) 王クパらはサメの餌食に

(前回からの続き )

王クパらはサメの餌食(えじき)に

風が吹きはじめて雨が激しく降り出すと、間もなくして、この呪われた渓谷に猛烈な嵐がやって来ました。

 

谷底では端から端まで荒れ狂う激流が溢(あふ)れ、ありとあらゆるものを押し流して、河口の低地帯に撒(ま)き散らしました。

 

さらには、王クパと彼の全ての民(たみ)を丸ごと飲み込むと、一人残らず海へ押し流してしまいました。

そしてその海の中で、彼らは群がるサメたちに貪(むさぼ)り食われてしまったのでした。

 

ありとあらゆるものが破壊され、生き残ったのはカマロと彼の家族だけでした。

彼らは聖なる囲いの中に居たので安全で、洪水は敢(あ)えて彼らに危害を加えませんでしたが、周囲にはどちらを見ても、恐怖と破滅が蔓(まん)延していました。

 

虹はワイアコロア(嵐)の前兆だ

この恐ろしい出来事が起きたプコオの港は、そのために長い間、「アイ カナカ(人食い)」 の名で知られていました。


そして、この地域の住民の間では、次のような諺(ことわざ)に変わっています。

「虹がマプレフ渓谷を渡ったら、ワイアコロアに注意せよ。」

 

--- それは雨と風の激しい嵐で、時々、突然あの渓谷を下ってやって来るのです。

 

 

(終わり)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 17. Ai Kanaka,  A Legend of Molokai,  Rev. A.O. Forbes, p.186-192.

 

 

194 アイ カナカ:(9) 虹が渓谷を渡る

(前回からの続き )

神の命令を完遂する 
カマロは喜びに満ち溢(あふ)れて家に戻ると、サメの神から受けた指示を全てやり遂げました(*1)。

 

すなわち、住居の周囲に聖なる柵(さく)を設けて、白いカパ布の聖なる旗で囲いました。
また黒い大きな豚、赤い魚、および白い鶏を、各々ラウだけ集め、さらにそれ以外に、ココナツや白いカパ布などの神聖な供物も集めました(N.1)。

 

 

それから腰を下ろした彼は、約束の復讐の合図を注意深く待ちました。

 

壮麗な虹が渓谷を渡る
来る日も来る日もただ徒(いたずら)に過ぎ、それが積み重なって何週にもなり、さらにその何週もが過ぎて幾月にもなろうとしていました。

 

そして遂に、ある日、あの約束の合図が現われました。

 

雪のように真っ白な1片の雲、人の掌(てのひら)ほどの雲がラナイ島の山々の上に現われ、強い向かい風の中を、嵐の海峡を横切って進みました。
それは近づきながら大きくなり、マプレフ渓谷奥の山々の上に落ち着いた時は、壮大な塊になっていました。

 

その時、華麗な虹が現われて、誇らしげに渓谷を跨(また)ぎ、その端を両岸の高台に据(す)えました。

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) 赤い魚(red fish):
神々に捧げる魚の色は、赤と白が最も多かったと言われています。このうち赤い魚では、ウェケ・ウラ(weke-ʻula), モアノ(moano), クム(kūmū) が普通でしたが、中でもクムが好まれたようです(*2)。なお、これら3種の魚は何れもヤギ(goat)のように髭(ひげ)を持つことから、英語名は同一で "goatfish" と呼ばれています。

 

 

 

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 17. Ai Kanaka,  A Legend of Molokai,  Rev. A.O. Forbes, p.186-192.
(*2) Margaret Titcomb(1972); Native Use of Fish in Hawaii, P.45.