夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

051 ヒクとカウェル:(6) 真の愛がヒクを動かす


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(前回からの続き)

悲しみに打ちひしがれるカウェル

ヒクが逃げ出したことを知ると、彼に夢中だったカウェルは

深い悲しみに襲われて、気が狂いそうになりました(*1)。

 

彼女は周囲の人々の、慰めの言葉を聞こうともしません。

 

その上、食べ物を何一つ口にしませんでした。

そして数日も経たないうちに、息も絶え絶えになってしまいました。

 

時すでに遅し

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使いの者どもがヒクの元に派遣され、不幸なヒクをお屋敷に連れ戻しました。

この悲しみは全て、元をたどれば彼の所為(せい)なのですから。

 

彼は愛(いと)しい人の遺体を目の前にして、激しく泣き悲しみました。

 

しかし、「今や、時すでに遅し。」 でした。

彼女の魂は既に、ミルが支配する死者の世界に、旅立ってしまったのです(N.1)。

 

真の愛がヒクを動かす

そして彼は今、彼女を見捨てて逃げ出したことを

親類縁者や友達たちから非難されて、傷ついたのでした。

 

さらに、その美しい女性を心から愛する気持ちが、彼をせき立てました。

 

こうして彼は、死者の世界に下りるという、とてつもない危険に挑(いど)む決意をしました。

さらにもし出来れば、彼女の魂を持ち帰ろう、と心に決めたのでした。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) 死者の世界(nether world), ミル(Milu) :

ハワイ語の「ミル(Milu)」は、「死者の世界」の支配者である王の名前ですが、それだけでなく、「死者の世界」そのものを指すハワイ語でもあります(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.

(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.247.