(前回からの続き)
悲しみに打ちひしがれるカウェル
ヒクが逃げ出したことを知ると、彼に夢中だったカウェルは
深い悲しみに襲われて、気が狂いそうになりました(*1)。
彼女は周囲の人々の、慰めの言葉を聞こうともしません。
その上、食べ物を何一つ口にしませんでした。
そして数日も経たないうちに、息も絶え絶えになってしまいました。
時すでに遅し
使いの者どもがヒクの元に派遣され、不幸なヒクをお屋敷に連れ戻しました。
この悲しみは全て、元をたどれば彼の所為(せい)なのですから。
彼は愛(いと)しい人の遺体を目の前にして、激しく泣き悲しみました。
しかし、「今や、時すでに遅し。」 でした。
彼女の魂は既に、ミルが支配する死者の世界に、旅立ってしまったのです(N.1)。
真の愛がヒクを動かす
そして彼は今、彼女を見捨てて逃げ出したことを
親類縁者や友達たちから非難されて、傷ついたのでした。
さらに、その美しい女性を心から愛する気持ちが、彼をせき立てました。
こうして彼は、死者の世界に下りるという、とてつもない危険に挑(いど)む決意をしました。
さらにもし出来れば、彼女の魂を持ち帰ろう、と心に決めたのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) 死者の世界(nether world), ミル(Milu) :
ハワイ語の「ミル(Milu)」は、「死者の世界」の支配者である王の名前ですが、それだけでなく、「死者の世界」そのものを指すハワイ語でもあります(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.
(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.247.