(前回からの続き)
心を奪われたカウェル
この「矢探しごっこ」でのヒクの快挙、そしてこの青年の際立った気品と美貌が、
王女の心をすっかり掴(つか)んでしまったのでした(*1)。
やがて彼女は、彼への強く激しい情熱に、取り憑(つ)かれてしまいました。
そして、彼を自分の夫にしようと決意したのでした。
ヒクを家に閉じ込める
あれこれと巧(たく)みに策をめぐらして、彼女は幾日間かの間、彼を自分の家に引き留めました。
そして、いよいよ彼が山に向けて、出発しようとした時のことです。
彼女は彼をあの家の中に、閉じ込めてしまいました。
結果として、彼を力ずくで拘束てしまったのです。
屋根裏から逃げ出す
しかし彼の心には、諭(さと)すようなあの母の言葉が、思い浮かびました。
「あまり長居するんじゃないよ。」
そして彼は、軟禁所から逃げ出そうと、決意しました。
そこでまずは、屋根の裏面までよじ上りました。
それから屋根葺(ふ)き材の一部分を取り除くと
その隙間(すきま)から、逃げ出してしまいました(N.1)
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) 屋根葺(ふ)き材(thatch):
かつてハワイでは屋根を葺(ふ)くのに、ピリ(Pili)と呼ばれる、日本の茅に似た草を使っていました。
広く熱帯地域に自生する多年草で、学名は"Heteropogon contortus"、日本語名は赤髭茅(アカヒゲガヤ)です。
ハワイ語名のピリは、かつてハワイ島の王だった、ピリカアイア(Pilikaʻaeia, 1125-1155)に由来する と言われています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.