夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

167 カアラとカアイアリイ:(21) 海の洞窟に入る


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(前回からの続き )

おびえ泣き叫ぶカアラ

おびえたカアラは、残酷な父の膝(ひざ)にしがみつきました(*1)。

 

「ここはイヤ! お願い、お父様。」

彼女はすすり泣き、また、大声を上げて泣き叫びました。

 

「この穴の中には、きっとウツボ(プヒ)の棲み家(すみか)があるわ(N.1)。

そのウツボが咬(か)みついて、私を引き裂いてしまうでしょう。

 

そして私が死ぬ前に、今度はカニが這(は)って忍び寄り、すすり泣く私の眼球をつつき出してしまうでしょう。

 

ああ、何と悲しいことでしょう、お父様。

いっそのこと、私をサメに食わせてやって下さい。

 

そうすれば、私の叫び声やうめき声が、あなたを傷つけることはないでしょう。」

 

海中の洞窟に入る

オプヌイはすらっとした少女を、筋骨たくましい片腕でしっかりと抱え込みました。

そして一足跳びに、泡立ち波立つ水の中に飛び込みました。

 

彼はイルカのように軽快に、水中に潜って行きました。

それから自由な方の片腕で、海水を後ろに掻きながら海底に沿って移動し、海中洞窟のギザギザした入口から中に入りました。

 

 

そして鍛え上げた筋力を生かして、暴風の大波に逆らいながら泳ぎ進み、日差しの無い洞窟内の岸辺にやって来ました。

そこで、この洞窟の中で立ち上がって振り向くと、その入口は海の中にありました。

 

洞窟内は広々として乾燥した空間で、高い天井からは塩がつららのように、垂れ下っていました(N.2)。

 

 

彼らの足元では緑色の透き通った海が、押し寄せては返していました。

そしてそのたびに、恐ろしいほど白くまばゆい光を、彼らの茶色い顔に反射させるのでした。

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) ウツボ(プヒ) (sea snake(the puhi)) : 

原文では"sea snake(the puhi)"と記されていますが、前半の"sea snake"は「ウミヘビ」を意味する英語で、残りの後半 "(the puhi)"は「ウツボ」を意味するハワイ語です。

しかし一般的に 「ハワイにはウミヘビはいない」と言われているので、ここでは上記における「ウミヘビ」の語を排し、「ウツボ」の語を活かして訳しました。

すなわち、原文の英語"sea snake" を 「ウツボ」 と和訳し、カッコ内のハワイ語"the puhi" は 「プヒ」 とカタカナ表記しました。

(N.2) 塩のツララ(salt-icicled ):

このお話しの舞台カウノル村のすぐ隣のアフプアアはケアリアです。この「ケアリア(Kealia)」と言う地名は、そこに塩の堆積層があったことを示唆しています(*2)。

従って、本文に登場する「塩のツララ」は、その堆積層から洞窟内に溶け出した塩が、ツララ状に固まったものと推測されます。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Lobbin Andrews,(reviced by Henry H. Parker)(1922): A Dictionary of the Hawaiian Language,Published by the Board, Honolulu,Hawaii.