(前回からの続き)
死者の世界に入る
やがてヒクは、とてつもなく大きな洞窟に入りました(*1)。
そこには、死者たちの霊が寄り集められていました。
ヒクが霊たちの間に入って行くと、彼らは好奇心にかられました。
「一体、この男は何者なんだろう?」
ヒクの悪臭がミル王をだます
ヒクの耳には、あれこれ噂する声が聞こえて来ました。
たとえばこんな風に、
「ヒャー!この死体。何と言うひどい悪臭を放つんだ!」
「奴は間違いなく、死んでから大分経っているぞ。」
彼は悪臭がする油を、かなり塗り過ぎてしまったのでした。
土手の上にはミル王が座り、群がる霊たちを監視していました。
しかしその王自身さえも、このヒクの悪臭戦略に、すっかり騙(だま)されてしまったのでした。
何故(なぜ)って、もしそうでなければ、王は決してヒクを許さなかったはずですから。
この薄暗く陰気な王の棲家(すみか)に、大胆にも生きた人間が下りて来るなど、あり得ないことなのです。
カウェルの霊がヒクを見つめる
ところで、ここで気を付けたいのは、ハワイのブランコは私たちのとは違う、と言うことです。
ハワイではロープは一本しかなく、それが十字に組んだ棒を支えています
そしてこの十字の棒の上に、ブランコに乗る人が座るのです。
さて、ヒクと彼のブランコは、見物していた霊たちから、大変な注目を浴びました。
その中でもある一つの霊が、無我夢中でじっと彼を見つめました。
そうですその霊こそが、彼の愛するカウェルだったのです。
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.