(前回からの続き )
愛するカアラとの別れ
さて意を決した英雄は、涙を流して泣く少女(カアラ)の、固く握っていた手を放しました(*1)。
彼の目は冷静で落ち着いていました。
しかし彼の閉じた口は、強く優しい愛の心の奥底、を表わしていました。
彼はこの短い別れよりも、もっと大きな悲哀がもたらす、うずくような痛みを感じたのです。
彼は彼女の小さな顔を、両手のひらで優しく抱えると、涙にむせぶ唇に、幾度も幾度もキスしました。
そして心を込めて彼女の手を強く握り締めると、大股で足早に歩き去ったのでした。
断崖上でカアラを見送る
カアラが石ころだらけの上り坂の小径(こみち)を、歩いていた時のことです。
その途中、彼女は愛する彼を一目見ようと、ちらっと振り向きました。
すると彼女の首長は、あの海に突き出た巨大な断崖の、一番高い岩の上に立っていました。
それから、彼女がもう少し歩いて振り返るとまだ、まだそこに彼が立っていました。
そして尾根の頂上にたどり着いて、いよいよ深い渓谷に下りようとした時、彼女は最後にもう一度だけ振り返って見ました。
すると依然として、愛するご主人は彼女を見上げていました。
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.