(前回からの続き )
彼を想いながら歩くカアラ
口をつぐんだ父と涙を流す子(カアラ)は、やがて緩やかで緑豊かなパラワイ盆地に足を踏み入れました(*1)。
しかし、今日の彼女はいつもとは違い、小径(こみち)の花を摘もうとしませんでした。
その代わりに、この花で花輪を編んで、愛するご主人の首につけてあげようと思いました。
そこで彼女は、帰り道にはどこで立ち止まろうか、と考えていました。
このようにあどけない思いを胸に、哀れな恋する乙女(おとめ)は、不機嫌そうなオプヌイについて旅を続けたのでした。
この道ではお母さんに会えない
彼らはカルルとカモクの林を通りぬけました。
それから、男はマハナに通じる小径から外れて、再び海の方角に向かい始めました。
これを見て、口を噤(つぐ)んでいた哀れな子は、気味悪く不機嫌そうな父の顔を見上げ覗き込むと、こう言いました。
「あー、お父さま。
この道を行っても、お母さんに会えないでしょう。
きっと道に迷って、また海に来てしまうでしょう。」
母は海辺で待っている
「だから、お前の母は海辺にいるんだ、カウマラパウ湾の近くだ。
彼女はそこで、岩場に張り付いた笠貝(カサガイ)を集めている。
お前のために大きな筒(つつ)イカを干(ほ)してある。
また、タロを幾つか潰(つぶ)して、ヒョウタン(容器)にポイを満たしてある。
だからもう一度、お前に食べさせてくれるだろう。
彼女は病気なんかじゃない。
だが、もしも私があの時、『彼女は健康だ。』と言っていたならば、お前のご主人は、お前を行かせなかったであろう。
しかし、今やお前は母と一緒に、この海辺で眠りに就(つ)こうとしているのだ。」
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.