(前回からの続き)
かけがえのない荷(カウェルの魂)を携えて、彼らはホルアロアの海岸に戻って来ました(*1)
上陸するとすぐに、ヒクは愛する人の体がまだ置かれている建物に行きました。
カウェルの魂を肉体に閉じ込める
その体の横に膝まづくと、彼は左足の親指に1つの孔(あな)を開けました。
そしてその孔の中に、四苦八苦しながら、嫌(いや)がる魂を押し込みました。
彼はそれから、魂の必死のもがきにも拘(かかわ)らず、傷口に包帯をしてしまいました。
そのため、今や魂は逃げ出すことが出来ず、
冷たくてべとべとした肉体の中に、閉じ込められてしまったのです。
ロミロミが生命の息吹をもたらす
それから彼はその足に、ロミロミ、すなわち、擦(こす)りマッサーをし始めました(N.1)。
こうして少しずつ魂を体の上へ上へと動かして、脚まで持って行きました。
そして魂が心臓に行き着くと、体中の至る所で再び、ゆっくりと血液が流れ出しました。
やがて肺が緩やかに膨らみ始めて、生命の息吹である呼吸が始まりました。
そして間もなくすると、魂は興味津々(きょうみしんしん)な様子で、2つの目を通してじっと外を見つめたのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ロミロミ( lomilomi):
ロミロミとは、古くからハワイに伝わる伝統的なマッサージをすることです。このロミロミは、ほとんどの病気に効くだけでなく、死の瀬戸際にある人を救うことも出来る、とも言われています(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.
(*2) R. Makana Risser Chai(2005): Na Mo'olelo Lomilomi; Traditions of Hawaiian Massage and Healing, Bishop Museum Press.