(前回からの続き )
岩ばかりの海辺に下りる
疲れ果てた哀れな少女は、疑心暗鬼になりながら、とぼとぼと歩き続けました(*1)。
そして、もの恐ろしい父の不機嫌そうな目を、悲しげにちらっと見るのでした。
彼女は腹立たしい思いで口を閉ざして、海岸に下りる石だらけの小径に、足を踏み入れました。
しかし、やっと海辺まで来てみると、そこには何もなく、目に見えたのは岩塊群と海だけでした。
胸が張り裂ける思いで、彼女は言いました。
「ああ、お父さま。 サメが私の母になる、とでも言うのですか?
そして私は、もう二度と愛する首長に会うことはない、と言うのですか?」
本当のことを聞きなさい!
「本当のことを聞きなさい。」 オプヌイが叫びました。
「お前の家は確かに、しばらくの間は海の中だ。
そして、サメがお前の友達になるであろう。
しかし、サメがお前を傷つけるようなことはさせない。
お前は海の神が棲(す)み給(たま)う地に、下りて行くのだ。
すると神はお前に、こう告げるであろう。
『たとえこのラナイ島のどの娘であろうとも、あの血なま臭い飛び込みをさせた呪われた首長が、娘を連れ去ることは許さない(N.1))。』
もしもカアイアリイがコハラに向けて舟を漕ぎ出したならば、その時はオロワルの首長を呼んで、お前をこの地に連れ戻させてやる(N.2)。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) 「血なま臭い飛び込み(bloody leap)」:
「血なま臭い飛び込み」とは、ラナイ島マウナレイ(Maunalei)の戦いにおいて、首長(カアイアリイ)がラナイの人々を断崖上に追い詰め、次々と深い谷に飛び込ませたことを指しています。
(N.2) オロワル(Olowalu):
このお話の舞台であるラナイ島の東隣にはマウイ島があります。そのマウイ島の西マウイにあり、海を挟んでラナイ島に面している町がオロワルです。このオロワルは、マウイ島の王ケカウリケ(Kekaulike)の娘、カロラ(Kalola)の統治下で大いに栄えました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.