(前回からの続き)
彼女の歌にカウヒが激怒する
彼が帰り道を歩いていた時、彼女は前と同じように歌を歌いました(*1)。
それは彼ら2人が越えて来た山道が、危険で困難だった様子を詳しく語っていました。
そして最後には、未だ真相が解らぬ過(あやま)ちに対して、切に許しを請うのでした。
一方、カウヒの方は、殺したはずの彼女の声をまた聞かされて、怒りに身を震わせました。
確かに、これまで彼は残酷な行為を繰り返し、女性はその苦痛に耐えてきました。
しかしこのことは、彼の心を和らげるどころか逆に、彼をより一層残忍な男にしてしまいました。
そして、元来、彼が持っていたであろう、優しい気持ちのほんのひとかけらすら、奪ってしまったのでした。
カハラオプナに永遠の死を!
彼が考えていることは唯一、彼女を永遠に殺してしまうことでした。
そうすれば、彼女に送り続けたポイと魚を無駄にした無念を、いくらかでも晴らせるのです。
彼は彼女のところに戻ると、前と同じように、彼についてくるよう命じました。
そして今度は、カリヒ渓谷の最上流にあるキロハナに向けて出発しました。
そこに着くと彼は、再び彼女を殺したのでした。
しかし、彼女はフクロウのお陰でまた生き返りました。
そして彼女がまた歌い始めたため、彼女が愛する冷酷なカウヒに、彼女の復活が知られてしまいました。
大きなコアの木の下に埋める
カウヒは彼女を連れて、今回は小さいが深く険しい峡谷や平原を幾つも横切りました。
そして彼らが、カアラ山脈のエヴァ斜面にある、ポハケアに着いた時のことです(N.1)(N.2)。
彼はそこで彼女を殺して、大きなコア(Acacia koa(学名))の木の下に埋めたのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) カアラ山脈(Kaala Mountains):
ここで言うカアラ山脈は、今では一般的にワイアナエ(Waianae)山脈と呼ばれています。なお、この山脈の最高峰はカアラ山(標高1,227m)で、オアフ島全体の最高峰でもあります。
(N.2) ポハケア(Pohakea):
ポハケアはワイアナエ山脈にある峠(標高660m)で、エヴァ側からこの峠を超えると、その先はこの島の西海岸です。なお、ポハケアはハワイ語で、Pōhā-kea = Pōhā(=Pō.haku) + kea = (英)stone + white = (和)白い石、を意味します(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.
(*2) Pukui et al.(1974): Place names of Hawaii, Reviced and Expanded Edition, University of Hawaii Press, p.185.