(前回からの続き)
滑って転んだのさ
そうしているうちに、カナはニヘウに命じて、母を捜(さが)しに行かせました(*1)。
「和(なご)やかにやるんだぞ。」 と、カナが言いました。
ニヘウはピョンと、岸へ飛び降りました。
しかし、つるつるした岩の上で滑って、転(ころ)んでしまいました。
気が動転したニヘウは、大慌(あわ)てでカヌーへ戻りました。
これを見たカナが、問い詰めました。
「何だって戻って来たんだ。」
「滑って転んじまった。危うく死ぬところだったぜ。」 とニヘウが答えると、
「さあ、早く行くんだ!」 とカナはニヘウを怒鳴りつけました。
カニに砂をかけられたんだ
ツイていないニヘウは、再び岸へ飛び降りました。
すると今度は細長い目のスナガニ(オヒキ・マカロア)が現われ、砂を引っ掻(か)いて舞い上がらせました(N.1)。
そして彼の目はとうとう、砂だらけになってしまいました。
そこで彼は再び、カヌーに戻って行きました
「目に入った砂を全部、取ってくれ!」
とニヘウが言うと、彼はそれを海水で洗い落としました。
「この馬鹿者が!」 と、カナが怒鳴りつけます。
「お前、下なんか見て、一体何を探していたんだ?
スナガニは鳥なんかじゃあないぞ。
上を見るんだ! ずうーっと上を見ていれば、砂なんか、入らなかったんだ。
さあ、もう一度行け!」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) オヒキ・マカロア(ohiki-makaloa)):
「オヒキ・マカロア」は、直前の語「長い目のスナガニ」)のハワイ語表記です。
一方、ハワイ語の辞書には、「ハワイ語のオヒキ(ʻō.hiki )はスナガニ(sand-crab)を意味し、その学名は"Ocypode ceratophthalma" であろう。」と記されています(*2)。
これに対応する代表的な英名は "horne-eyed ghost-crab" ですが、"horne-eyed sand-crab" とも呼ばれます。後者を直訳すると「角(ツノ)状の目のスナガニ」です。
日本では沖縄諸島の砂浜に生息し、和名は「ツノメガニ」です。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.
(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.278.