夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

072 カペエペエカウイラ (カナの岩):(15) ヒナが逃げる


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(前回からの続き)

カペエペエカウイラが戦いを決意

カペエペエカウイラは限りなく深く、ヒナを愛していました(*1)。

そのカペエペエカウイラが、こう主張しました。

 

「敵がどう攻めようが、ハウプには指一本触れさせないぞ。

見よ、このハウプの丘は、天まで伸びているんだ。」

 

ニヘウの鍵を穢(けが)せ

こう言うと彼は、コレア(ムナグロ)の群れにニヘウを追わせました(N.1)。

ニヘウが持つ聖なる鍵の、神聖さを穢(けが)そうとしたからです。

 

というのは、ニヘウの鍵はカプだったからです(N.2)。

 

万一誰かがその鍵に触れれば、神聖さは穢されてしまうのす。

そして鍵を守れなかったニヘウは、まさにその罪悪感から、ヒナを手放すのです。

 

ということで、コレアの群れは大空へ飛び立ち、そしてニヘウの聖なる鍵に触れました。

そのためニヘウは、まさにその罪悪感から、去って行く母をそのまま見過ごしたのでした。

 

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コレアの尾を叩きつぶす

その後、ニヘウは杖を振り上げると、コレアたちに襲いかかりました。

彼らの尾に狙いを定めると、その羽根を叩(たた)きまくりました。

 

そして一羽も残さずに、丸ごと叩きのめしてしまいました。

ですから今でも、コレアたちは尾が無いままなのです。

 

それからニヘウは、カヌーがある岸の端まで戻って来ました。

一方コレアたちは、ヒナを勝ち取って得意満面でした。

 

カナにはトリックも効かない

岸に着いたニヘウは自分の額(ひたい)を、血が流れ出すまで石で叩(たた)きました。

しかしカヌー上にい居たカナは、それがトリックであることを見抜きました。

 

そうとは知らず、ニヘウはカヌーに乗り込むと、こう言いました。

「見てくれ!わしら戦ったんだ。ワシは頭に怪我をしちまった。」

 

しかしカナは、こう言い返しました

「いや違う、戦いなんて無かったんだ。

お前、負けて恥ずかしいからって、その傷、自分で付けたんだ。」

 

すると、ニヘウがこう応じました。

「何だって、そんなら、わしら戦おうか?」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) コレア(ムナグロ) (kolea(plover)):

コレアは渡り鳥のハワイ語名で、和名「ムナグロ」、英名 "Pacific Golden plover(略称:plover)、そして学名は "Pluvialis fulva" です。

毎年8月末にアラスカやシベリアから、ハワイにやって来て冬を過ごし、翌年5月初めには帰って行く冬鳥です。

(N.2) カプ(kapu) :

カプとは、タブーを意味するハワイ語で、かつてのハワイ社会を支配した厳格な規則です(*2)。

人々の日常生活は、あらゆる場面でこのカプにより拘束されていました。

例えば首長が村の中を歩く時には、平民はひざまずき頭を下げねばなりませんでした。

万一このカプが破られると、首長が持つ神聖な力が減ってしまう、と言われていました。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

(*2) J.S.Williams(1997): From the mountains to the sea: early Hawaiian life, Kamehameha Schools./ Chap.5 Nā Kapu:The Forbidden or Sacred, p.41-42.