(前回からの続き)
カペエペエカウイラが戦いを決意
カペエペエカウイラは限りなく深く、ヒナを愛していました(*1)。
そのカペエペエカウイラが、こう主張しました。
「敵がどう攻めようが、ハウプには指一本触れさせないぞ。
見よ、このハウプの丘は、天まで伸びているんだ。」
ニヘウの鍵を穢(けが)せ
こう言うと彼は、コレア(ムナグロ)の群れにニヘウを追わせました(N.1)。
ニヘウが持つ聖なる鍵の、神聖さを穢(けが)そうとしたからです。
というのは、ニヘウの鍵はカプだったからです(N.2)。
万一誰かがその鍵に触れれば、神聖さは穢されてしまうのす。
そして鍵を守れなかったニヘウは、まさにその罪悪感から、ヒナを手放すのです。
ということで、コレアの群れは大空へ飛び立ち、そしてニヘウの聖なる鍵に触れました。
そのためニヘウは、まさにその罪悪感から、去って行く母をそのまま見過ごしたのでした。
コレアの尾を叩きつぶす
その後、ニヘウは杖を振り上げると、コレアたちに襲いかかりました。
彼らの尾に狙いを定めると、その羽根を叩(たた)きまくりました。
そして一羽も残さずに、丸ごと叩きのめしてしまいました。
ですから今でも、コレアたちは尾が無いままなのです。
それからニヘウは、カヌーがある岸の端まで戻って来ました。
一方コレアたちは、ヒナを勝ち取って得意満面でした。
カナにはトリックも効かない
岸に着いたニヘウは自分の額(ひたい)を、血が流れ出すまで石で叩(たた)きました。
しかしカヌー上にい居たカナは、それがトリックであることを見抜きました。
そうとは知らず、ニヘウはカヌーに乗り込むと、こう言いました。
「見てくれ!わしら戦ったんだ。ワシは頭に怪我をしちまった。」
しかしカナは、こう言い返しました
「いや違う、戦いなんて無かったんだ。
お前、負けて恥ずかしいからって、その傷、自分で付けたんだ。」
すると、ニヘウがこう応じました。
「何だって、そんなら、わしら戦おうか?」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) コレア(ムナグロ) (kolea(plover)):
コレアは渡り鳥のハワイ語名で、和名「ムナグロ」、英名 "Pacific Golden plover(略称:plover)、そして学名は "Pluvialis fulva" です。
毎年8月末にアラスカやシベリアから、ハワイにやって来て冬を過ごし、翌年5月初めには帰って行く冬鳥です。
(N.2) カプ(kapu) :
カプとは、タブーを意味するハワイ語で、かつてのハワイ社会を支配した厳格な規則です(*2)。
人々の日常生活は、あらゆる場面でこのカプにより拘束されていました。
例えば首長が村の中を歩く時には、平民はひざまずき頭を下げねばなりませんでした。
万一このカプが破られると、首長が持つ神聖な力が減ってしまう、と言われていました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.
(*2) J.S.Williams(1997): From the mountains to the sea: early Hawaiian life, Kamehameha Schools./ Chap.5 Nā Kapu:The Forbidden or Sacred, p.41-42.