(前回からの続き)
暗礁に乗り上げる
彼らは先へ先へと進み続けましたが、やがて硬い暗礁に乗り上げ、
カヌーが座礁してしまいました(*1)。
するとニヘウが大声で呼びました。
「見ろ! あー、あんた眠ってるのか、カナ。
その間に、ワシらみんな溺れ死んじまうぞ。」
それに答えて、カナが言います。
「 一体、何があるって言うんだ、 ワシらが溺れ死ぬって?
こりゃー、ハウプ湾の暗礁じゃないか?(N.1)
離れるんだ! 暗礁、岩塊、それに海底の深い溝に近づくんじゃないぞ。
さあニヘウよ、おまえの杖『ワカイラニ』で、殴り飛ばすんだ(N.2)。」
魔法の杖『ワカイラニ』の威力
ニヘウが彼の杖で暗礁に殴りかかると、岩はバラバラに砕けてしまいました。
今やカヌーは暗礁から脱出し、自由に動けるようになったのです。
こうして彼らは、再び目的地を目指して進み始めました。
恐ろしい水の壁に襲われる
ところが、見張り番をしていたニヘウが、また大声で叫びました。
「あんた、なぜ眠ってるんだ? あー、カナよ。
ワシらまた、ここで死んじまうぞ。
あんた眠るのが好きだな。ずーっと顔を見なかったぞ!」
「なぜ死んじまうんだ?」 と カナが言いました。
「見ろ。」とニヘウが答えました。
「恐ろしい水の壁だ。
もしもワシらが突っ切ろうとすれば、頭の上から水の塊が崩れ落ちて来るぜ。
そうなりゃー、ワシら皆殺しにされちまうぜ。」
するとカナが言いました。
「よく見るんだ。あのハウプの暗礁は、もうワシらのはるか後ろだ。
暗礁はワシらをぶっ殺そうとしたが、ワシらはそれを通り抜けたんだ。
ワシらの行く手を阻(はば)む殺人鬼どもは、お前の杖で殴り飛ばしてやれ。」
魔法の杖が水の壁を割る
そこでニヘイが水の壁に殴りかかると、何と、その壁は真っニつに割れました。
そしてカヌーは無事、そこを通り抜けたのでした。
こうして彼らは再び、前と同じように進み始めました。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ハウプ(Haupu):
ハウプ湾とは、ハウプ岬の前に広がる湾の名称です。そしてハウプ岬の頂上には、カナとニヘウがこれから戦いを挑(いど)む相手、カペエペエカウイラが住んでいます。
(N.2) ワカイラニ(Waka-i-lani):
ワカイラニはニヘウが持っている特別な「杖」の名称(ハワイ語名)です。Hawaiian Legends Indexでは、ワカイラニにカッコ書きで英語を付し "Wakailani (Magic Rod)" としています(*2)。すなわち、ワカイラニは「 魔法の杖」です。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.
(*2) Hawaiʻi State Library(2010): Hawaiian Legends Index. 2010 ed.