(前回からの続き)
カウヒの決意
このような悪い噂は、かなり頻繁(ひんぱん)に聞こえて来ました(*1)。
そのためカウヒはやがて、この噂を信じるようになったのでした。
彼の心の中は、婚約者への嫉妬と激しい怒りで溢(あふれ)れ返りました。
そして遂に、彼は彼女を殺そうと決意したのでした。
マノア渓谷に向かう
夜明けとともに彼は、婚約者カハラオプナが住む、マノア渓谷に向けて出発しました。
ちょうど渓谷の中ほどのマヒナウリまで進んで、ひと休みしました。
そこはウィリウィリの林の中に生えていた、一本のハラの木の下でした(N.1)(N.2)。
暫(しばら)くの間、彼はそこで腰を下ろしていました。
そしてある時は、自虐的になり自分を痛め付けようと、あれこれ思い詰めました。
またある時は、激しい怒りに駆られ、復讐心を燃え上がらせたのでした。
再び歩き始めた時、彼は一房のハラの実をもぎ取って持っていました。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ウィリウィリ (Wiiwili):
ウィリウィリは、学名Erythrina sandwicensisの樹木のハワイ語名です。この樹木はハワイの固有種で、風下側の乾燥した地域に自生します。
比重が小さいので、カヌーのアウトリガー、魚網の浮き、サーフ・ボードなどに使われました。
(N.2) ハラ (Hala) :
ハラは、学名Pandanus tectoriusの樹木のハワイ語名です。このハラはハワイの在来種で、その葉はラウハラと呼ばれて、かつてはマットや屋根葺き材をはじめ、数多くの日常生活用品に加工されました。
雌雄異株で雌株はパイナップルに似た形の実をつけ、大きなものは20〜30cmにもなると言われます。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.