(新しいお話しの始め)
フアラライの山頂に住む
ハワイ島のフアラライ山頂からそう遠くない、尾根筋の南側に洞窟がありました(*1)(N.1)(N.2)。
その洞窟には、ヒナと彼女の息子が住んでいました。
息子はクプア、すなわち半神で、その名をヒクと言いました(N.3)。
小さい子供の時から若者に成長するまでずーっと、ヒクは母親と2人だけでこの山頂に住んでいました。
そして、眼下の平原に降りることは、これまで一度たりとも許されませんでした。
そのため、人間たちの住居を見たり、生活様式を学び知ることも、ありませんでした。
浮かれ騒ぐ平原が気になる
時折、彼の鋭敏な耳は、遠くから聞こえて来る、フラのドラムの音を捕えました。
そしてまた、陽気に浮かれ騒ぐ、人間たちの声も聞きました。
彼はしばしば、女性たちの美しい姿を見たい、と思いました。
--- はるか彼方(かなた)のココナツ林の中で、踊ったり歌ったりする彼女らの姿を。
しかし経験豊かな母は、彼が平原に降りると、何が起こるかを見通していました。
ですから彼女はそれを、決して許しませんでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) 執筆者エマーソン(J.S. Emerson):
このお話しの執筆者はエマーソン(John Smith Emerson)さんです。
1800年に米国に生まれ1831には宣教師としてハワイに渡りました。オアフ島ノースショアのワイアルア(Waialua)を拠点に活動し、1867年、その地で亡くなりました。。
(N.2) フアラライ山(Hualalai):
フアラライ山はハワイ島西部にある標高2,521mの火山で、この島で3番目、ハワイ州全体でも4番目に高い山です。
この山は恥ずかしがり屋で、特に午後には雲に覆われ、その姿を隠してしまうと言われます。
山の西側の海沿いには島第2の都市カイルア・コナがあり、山腹にはハワイの有名ブランド、コナ・コーヒーの農園が広がります。。
またコナ国際空港は、この山が噴火して出来た溶岩台地の上に建設されました。。
>(N.3) クプア(Kupua):。
クプアとは半神(はんしん)のことで、神と人との間に生まれた存在です。。
なお、ハワイで最も有名なクプアはマウイで、太陽を捕まえたり火をもたらすなど、文化英雄としても活躍します。
(注記)。
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.