(前回からの続き)
マストが枝にからまる
そしてついに、深い夜の闇の中から、夜明けの兆(きざ)しが見え始めました(*1)。
ちょうどその時、カヌーの帆柱(マスト)が木々の枝に、引っかかり出しました。
ニヘウがその枝をめがけて、勢い良く石を投げると見事に命中し、
何本もの枝がガタガタ音を立てて落ちて、マストは自由になりました。
そこで彼らはさらに進み続け、やがてカヌーはゆっくりと止まりました。
カヌーが浅瀬に着く
するとすぐに、ニヘウが叫びました。
「さあ着いたぞ。また眠ってる、おー、カナ。
カヌーを浅瀬に泊めたぞ!」
カナは目を覚ますと、まず足もとの感触を確かめました。
するとそこは地面ではなく、まだカヌーの中でした。
次に頭上の様子を探ると、マストに雑草が絡(から)まっていました。
そこをグイッと引っ張ると、雑草と土が一緒に落ちて来ました。
あのバカでかいカヌーは何だ!
引きちぎれたばかりの雑草から、新鮮な香りが立ち昇り、
カペエペエカウイラが住む家、ハレフキにまで漂って行きました。
ハウプの頂上にいた彼の手下たちは、足下の浅瀬に浮かぶカヌーに注目しました。
「あのカヌー、バカでかいぞ!」 と彼らは叫びました。
「あー! ありゃオピヒ(貝)をどっさり積んでるぞ。ヒナのためにハワイ島から運んで来たんだ(N.1)。」
と言うのは、オピヒは彼女の大好物だったからです。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) オピヒ(Opihi):
オピヒはハワイのアワビとも言われる一枚貝で、波の荒い岩場に生息しています。
昔からハワイの人々の大好物ですが、オピヒ狩りは今でも毎年水死者を出す、危険な作業でもあります。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.