(前回からの続き)
海辺でおしゃべりしたい!
長い年月が経ち、今やヒクは 「自分は一人前の男だ」、と思うようになりました(*1)。
そして、浮かれ騒ぐ笑い声が耳に入った時、彼は再び母に頼みました。
「自分一人で行かせて下さい。あの海辺の人たちと、おしゃべりさせて下さい。」
彼は心の中で行くと決めている、と気づいた母は渋々承知しました。
そして、こう忠告したのでした。
「あまり長居せずに、早めに戻って来るんだよ。」
不思議な力を持つ矢プア・ネ
そこでヒクはいつも持ち歩いている、忠実な矢プア・ネを手に取って出発しました(N.1)。
この矢はお守りのような物で、信じられないほど素晴らしい力を、いろいろと持っていました。
例えば、彼が呼びかけると、矢はそれに答えることが出来るのです。
また、大空を飛んで旅の道案内もしてくれるのです。
海辺をめざして山を下りる
ということで彼は、デコボコした溶岩の上を歩いて、下って行きました。
それから、山の南西斜面を覆(おお)っている、コアの林を通り抜けて下りました。
こうして彼は山を降りて、麓(ふもと)近くまでやって来たのでした。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) プア・ネ (Pua Ne):
ハワイの伝統的なゲームの一つに、ケア・プア(Ke'a-pua)があります。そこでは、花が咲いたサトウキビの茎(くき)を、矢のように投げて競います。
一方、このお話の舞台フアラライ山麓は、今でこそ有名なコナ・コーヒーの産地ですが、かつてはサトウキビ農園が広がっていました。
となると、このお話に登場する矢プア・ネは、上のゲーム(ケア・プア)に由来するのかも知れません(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅴ. Hiku and Kawelu, J.S. Emerson, p.43-48.
(*2) David Malo(1898): Hawaiian Antiquities, Translated by Dr.N.B.Emerson, p.301-302.