(前回からの続き )
大王がコウの木の日陰に座る
闘(たたか)いの時が、刻一刻と近づいて来ました(*1)。
大王は、葉の生い茂ったコウの木の下に、座りました(N.1) 。
かつてコウの木は、「高貴な木」とされていたのです。
しかし王族たちがいなくなると共に、かつて彼らの 「日よけ」だったその木も、次第に見られなくなったのでした。
2人の勇者がにらみ合う
貝を敷き詰めた滑らかな床の上には、ハラのマットが敷かれていました(N.2)。
マットの上には、四肢むき出しの勇者2人が、マロ一丁で立っていました(N.3)。
彼らは互いに、強い欲望と血に飢えて激怒した相手の胸を、熱い嫌悪の眼差しで撃ち抜きました。
そして相手を絞め殺そうと、両腕を思いっきり伸ばしました。
殴り合いが始まる
向かい合って立った彼らは、幅広く光沢あるブロンズ色の相手の胸を、互いに、ずっしりと重い握り拳(こぶし)で殴り続けました。
またある時は、顔を向き合わせてにこやかに笑いながらも、激しい殺意を感じては、相手を睨(にら)みつけました。
相手を威嚇(いかく)する<
それから彼らは、右足を前に出して右腕を高くかざすと、一息ついて鬨(とき)の声を上げます。
そして互いに、これまで如何(いか)にして相手に重傷を負わせ、ズタズタに引き裂き、そして殺してきたかを話すのです。
さらには如何にして相手の肉を、獣(けもの)に喰わせてきたかを話します。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) コウ (Kou):
コウの木には、大きな卵型の葉がこんもりと茂るので、強い日差しも遮(さえぎ)られて、木ノ下の空間までは届きません。そこで、かつては日陰を作る目的で、海岸付近や家の周りにコウの木が植えられました。
(N.2) ハラ (hala):
ハラはタコの木属の植物のハワイ語名で、その学名は "Pandanus tectorius"です。
ハラの葉はラウハラ(lauhala)と呼ばれ、これを編んでマットが作られました。また屋根葺き材料として使ったり、籠や帽子を作ったりもされました。
(N.3) マロ (malo):
マロはハワイ語で、日本語で言う「ふんどし」のことです。かつてのハワイでは、このマロが男性の通常の装いでした。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.