(前回からの続き )
カアラの父が嘆く
これを見て、頑丈そうだが白髪混じりの島の男が、泣きながら声を張り上げて訴えました(*1)。
「カアラよ、私の子カアラが行ってしまった。
私がオフアを槍で突く漁から帰った時、一体誰が、私の手足の疲れを癒してくれるのだ(N.1)?
そして、ちょうどあのオロワルの首長のように、私に娘がいなくなったら、誰がタロやパンの木の実をくれると言うのだ(N.2)?
ここは、娘をあの首長(カアイアリイ)から、隠さなければいけない。
さもなければ、自分が死ぬことになるだろう。」
こうしてカアラの父オプヌイは、悲嘆に暮れてしまいました。
父オプヌイの怒りと決意
しかし激しい憎しみが、オプヌイの心を突き動かしました。
彼の友人はマウナレイの戦いで、崖の向こうに追いやられたのです。
そして彼自身も、あの虐殺者に服従し媚(こ)びへつらいながら、生きて来たのでした。
そこで今度もまた、彼は自らの憎悪の念を心の中に隠すことにしました。
そして娘を救う計画を練り上げ、その中で殺人者の邪魔をして、家族を逃がそうとしたのです。
彼は心ひそかに、こう言いました。
「娘を海の中に隠そう。
その場所は誰も知らない。
それを知るのは唯一、魚の神々、そして私だけだ。
そこでは、永遠(とわ)に鳴り響く砕け波が、カアラの上に押し寄せるであろう。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) オフア(ohua):
オフアとは、ヒナレア(hīnālea), フムフム(humuhumu), ウフ(uhu)など、色々な魚の「稚魚」を意味するハワイ語です
そして、上記の魚の中でも特に人気があるフムフム(学名: Rhinecanthus rectangulus)は、2006年にハワイ州の魚に指定されました(*2)。
(N.2) オロワル(Olowalu):
このお話しの舞台ラナイ島の東隣には、かつて栄えたマウイ島があります。島の中心は西マウイにあるラハイナ(Lahaina)で、その南東約6kmにあるのがオロワルです。
このオロワルの地は、かつてタロとパンの木の林(の豪華な日陰)で知られていました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) Hawaii Gov.(2006): Hawaii State Legislature 2006 Legislative Session, HB1982 HD2 SD1.