(前回からの続き )
カアイアリイが愛を語る
英雄はたくましい片腕を若き恋人に絡(から)ませて、しっかりと抱きしめました(*1)。
そして彼女の目をじっと見つめながら愛情を込めた手で、輝く髪を額(ひたい)から払い除(の)けました。
こうして彼は、自らの生きる糧(かて)とも言えるカアラに、話しかけました。
「おお、私の愛(いと)しい人よ、貴方(あなた)無しでは、一体どうして生きて行けようか?
-- たとえ、太陽が東から出て西に沈むまでの、今日一日間だけであっても。
貴方は私の生きる力なのです。
もしも貴方がいなければ、私は海辺に打ち上げられた魚のように、息を切らして死んでしまうでしょう。
いや違う! 私にそんな風に言わせないでくれ。
カアイアリイは首長だ、これまで多くの人やサメと戦って来たのだ。
だから絶対に、女の子みたいなことを、言ってはいけないのだ。
母を見捨てられようか?
私も、自分の母を愛している。
彼女はコハラの谷で、私の帰りを待っている。
それを考えれば、あなたの母の気持ちを無視するなど、とても出来ない。
彼女は最後にもう一度、あなたの愛らしい顔と優しい姿を見たいに違いない。
なぜなら、あなたに食べ物を与えて育て上げたのが、あなたの母なのだから。
さらに今となっては、それは私のためでもあったのだ。
さあ行きなさい、私のカアラよ!
そしてあなたの首長である私は、あなたの愛を渇望しながら、じっと座って寝ずの番をしよう。
--あなたが私の腕の中に再び戻って来るまでは。」
(次回に続く)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.