(前回からの続き )
カアラを襲う恐怖
可愛そうな乙女(カアラ)は、もとより残忍な剛腕者も意に介さない人でした(*1)。
しかしボーン・ブレーカーと言う、あの恐ろしい名前を聞くと、彼女は両手を組んで高く掲げて、全身で驚きを表わしたのでした。
と言うのも彼女はその男について、色々な噂を伝え聞いていたからです。
その男は、ちょうど彼女のように上品な、何人もの乙女たちの息の根を止めて来たのです。
そして激しい憎悪の念に駆られ、力尽きた乙女たちを踏み潰(つぶ)しました。
挙げ句の果てに、サメたちに向けて、彼女らを投げ捨てたのでした。
カアイアリイを愛す
このようななかで、このラナイ島の乙女はあのハワイ島の若き首長に、恋心を抱いてしまいました。
確かに、かつて彼は彼女の島の人々を、槍で突き刺しました。
しかし彼女の心を傷つけたのは、彼の目から放たれる、愛情溢(あふ)れる矢だけでした。
彼の方に顔を向けた彼女は、残忍で機敏かつ若々しい、愛(いと)しい人をじっと見つめて、こう言いました。
「あー、私のカアイアリイ!
どうか、私を愛する貴方(あなた)の情熱が、戦場での槍の突きと同じくらいに、真剣でありますように!
そして私を、あの血生臭い処女喰らい(ボーン・ブレーカー)から救って下さい。
そうすれば私は毎日毎日、貴方のためにイカを捕(と)り、また、カパを叩(たた)きましょう(N.1)。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) カパ (kapa):
「カパを叩く」とは、カパ布を作るために、その材料である樹皮を叩いて伸ばすことです(*2)。
かつてのハワイでは、あらゆる衣類はカパ布を加工して作られました。そのためカパを叩く作業は、女性の最も重要な仕事の一つでした。そして、たたき棒から出る音は、当時の社会では誰もが知る、お馴染みの音でした。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) Ralph S. Kuykendall(1938): The Hawaiian Kingdom, Vol.1, University of Hawaii Press, p.6.