夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

155 カアラとカアイアリイ:(9) カアラを襲う恐怖と愛


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(前回からの続き )

カアラを襲う恐怖

可愛そうな乙女(カアラ)は、もとより残忍な剛腕者も意に介さない人でした(*1)。

 

しかしボーン・ブレーカーと言う、あの恐ろしい名前を聞くと、彼女は両手を組んで高く掲げて、全身で驚きを表わしたのでした。

と言うのも彼女はその男について、色々な噂を伝え聞いていたからです。

 

その男は、ちょうど彼女のように上品な、何人もの乙女たちの息の根を止めて来たのです。

そして激しい憎悪の念に駆られ、力尽きた乙女たちを踏み潰(つぶ)しました。

 

挙げ句の果てに、サメたちに向けて、彼女らを投げ捨てたのでした。

 

カアイアリイを愛す

このようななかで、このラナイ島の乙女はあのハワイ島の若き首長に、恋心を抱いてしまいました。

 

確かに、かつて彼は彼女の島の人々を、槍で突き刺しました。

しかし彼女の心を傷つけたのは、彼の目から放たれる、愛情溢(あふ)れる矢だけでした。

 

彼の方に顔を向けた彼女は、残忍で機敏かつ若々しい、愛(いと)しい人をじっと見つめて、こう言いました。

 

「あー、私のカアイアリイ!

どうか、私を愛する貴方(あなた)の情熱が、戦場での槍の突きと同じくらいに、真剣でありますように!

 

そして私を、あの血生臭い処女喰らい(ボーン・ブレーカー)から救って下さい。

そうすれば私は毎日毎日、貴方のためにイカを捕(と)り、また、カパを叩(たた)きましょう(N.1)。」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) カパ (kapa):

「カパを叩く」とは、カパ布を作るために、その材料である樹皮を叩いて伸ばすことです(*2)。

かつてのハワイでは、あらゆる衣類はカパ布を加工して作られました。そのためカパを叩く作業は、女性の最も重要な仕事の一つでした。そして、たたき棒から出る音は、当時の社会では誰もが知る、お馴染みの音でした。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Ralph S. Kuykendall(1938): The Hawaiian Kingdom, Vol.1, University of Hawaii Press, p.6.