(前回からの続き )
あなたは私の生きる力
あの可愛らしいジャスミン(カアラ)は、彼の首に両腕を巻き付けました(*1)。
そして、彼の胸に頬(ほほ)を擦り寄せながら、ちらっと顔を見上げてこう言いました。
「おお私の首長よ。あなたは私に、生きる力と素晴らしい喜びを下さった。
あなたの息づかいは私の活力、
あなたの目は私の最も快く美しいもの、
あなたの胸は私の唯一の安らぎの場です。
そして私が遠く離れて行く時、その道中きっとあなたを、振り返り続けるでしょう。
そして後ろ髪を引かれる思いで、ゆっくりと進むことでしょう。
しかしあなたのもとに戻る時は、是非とも翼を手に入れましょう。
--- ご主人様のもとに私を運んでくれる翼を。」
行きも帰りも空を飛ぶのだ
「そうだ、我が愛(いと)しの恋人よ。」 とカアイアリイが言いました。
「あなたは飛ぶのだ。だが帰りと同じように、 行きも素早く飛んで行くのだ。
行きも帰りも両方共、あなたは私を目指して飛ぶのだ。
あなたが行ってしまった後、きっと私は柔らかいオフア(小魚)を槍で突き、ヤムとバナナを焼くだろう(N.1)。
それから、ヒョウタン容器を美味(おい)しい水で満たそう。
そしてあなたが戻った時には、愛するあなたに食べさせてあげよう。
だからその時、私には、あなたの愛をこめた眼差しを下さい!」
もしも彼女が戻らなければ---
「さあ、オプヌイ! あなたの子を連れて行きなさい。
あなたは彼女に命を与えてくれた。
しかし今は、彼女が私に命を与えているのです。
だから太陽が2回昇る前に、元気な彼女を連れ戻して下さい。
もしも、彼女がすみやかに戻らなければ、きっと私は死ぬでしょう。
しかしその前に、私はあなたを殺さなければなりません。
ですから、おー、オプヌイよ! 大急ぎで出発して、大急ぎで戻って来て下さい。
そして、私の命であり愛である彼女を、私のもとに連れ戻して下さい。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ヤム(yam):
ヤム(英名)とは、ヤマノイモ属(Dioscorea)の中の塊根を食用とする種の総称です。ヤムの中でハワイで最も代表的な種が Dioscorea alata(学名)であり、そのハワイ名はウヒ(uhi)、和名はダイジョです。
かつてこのヤムを食べる時は、イム(imu)と呼ばれる地中オーブンで焼きました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.