(前回からの続き )
父が母の危篤を告げる
さてその朝、血色良い茶色の頬(ほお)の少女(カアラ)は、眩(まぶ)しい愛の兆(きざ)しに顔を紅潮させながら、 ご主人(カアイアリイ)の小屋の入口に立ちました。
彼女の顔面は、太陽の光を受けてキラキラと輝いていました。
すると、彼女の父が粗末な装いで歩み出て、こう言いました。
「我が子よ、お前の母は今マハナで、息絶えようとしている(N.1)。
だから是非とも、お前の愛情を母に注いであげてくれ。
彼のカヌーが偉大な地(ハワイ島コハラ)へお前を連れて行く前に、もう一度、母に会ってやって欲しいのだ。」
母を見舞に行かせて下さい
「ああ、何と悲しいことでしょう!」
と優しい子(カアラ)が言いました。
「一体いつから、カラ二(お母様)は病気なの?
主人が槍で捕まえたこの大きくて美味しい魚を、お母様に持って行ってあげましょう。
そして私がお母様のうずく手足を揉(も)みほぐせば、愛情溢(あふ)れる娘の手技が効(き)いて、きっとまた元気になるでしょう。
大丈夫。主人は私が行くことを、許してくれるでしょう。
違いますか? おお、カアイアリイよ。
最期にもう一度、母を抱きしめてあげたいのです。
ですからどうか、母のもとに行かせて下さい。
月があの湾を2回渡り終えるまでには、必ず戻って来ますから(N.2)。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) マハナ(Mahana):
マハナは、ラナイ島北部にあるアフプアア(行政区画)の名称。カアラが住むカウノル村は島の南西部にあるので、マハナは島の反対側です。
(N.2) 月があの湾を2回渡り終える( the moon has twice spanned the bay):
晴れた日の夜、湾の水面に映る月は、あたかも湾を渡るように動きます。
そしてこの月は1晩に1回だけ湾を渡るので、ここで言う「2回渡り終える」とは、2晩が過ぎることを示しています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.