(前回からの続き )
勇猛なカアイアリイ
カアイアリイは、数多くの虐殺者と同じように、見かけは立派(りっぱ)でした(*1)。
彼はライオンのように勇猛な心の持ち主で、肌はライオンのような黄褐色でした(N.1)。
カールした眉毛(まゆげ)の後ろからは、浅黒い上品さが放たれていました。
小ぶりで強靭(きょうじん)な彼の手は、ある時は敵の喉(のど)を締め上げ、またある時は、愛する人を優しく愛撫(あいぶ)しました。
また彼の目は、ある時は憎悪の炎で満ち、またある時は、愛の炎に満ち溢(あふ)れるのでした。
カアラへの激しい愛
そして今、愛の炎が、英雄の顔に一気に血を上らせて、赤く燃え上がらせました。
そこでカアイアリイは、彼が仕える大王にこう願い出ました。
「おお、このハワイのあらゆる島々を統治する大王陛下!
どうか、この甘い花・カアラを私にお授(さず)け下さい。
私の領土としてお授け下さったあの谷よりも、むしろ 彼女を頂きたいのです。」
カアラは決闘で勝ち取れ!
カメハメハ大王は答えて言いました。
「このラナイ島に咲くジャスミンの花を、お前に与えたコハラの谷に植えるが良い(N.2)。
しかしその娘については、「自分のものだ。」と主張する者がもう一人いるのだ。
そいつは頑強なボーン・ブレイカーで、体に戦いの傷跡があるマイロウと言う男だ(N.3) 。
だが、マウナレイで果敢に戦った我が槍の達人よ! 恐れることは何一つ無い、お前は奴と格闘するのだ。
そしてその格闘に勝って、彼女を両腕で抱きしめた者に、彼女を家に連れ帰ることを許すとしよう。
そこではきっと、1枚のカパ布が2人を覆うことであろう。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) 勇猛な心(lion's heart):
カアイアリイのことを、本文では 「勇猛な心の持ち主(with the lion's heart)」 と記しています。
この "lion's heart"という語は、かつて獅子心王(Lionheart)と称された、イングランド王・リチャード1世(1157-1199) を思い浮かべさせます。彼は在位期間10年の大半を戦争と冒険に明け暮れ、その勇猛さから騎士の模範と讃えられた、当時の英雄でした。
(N.2) コハラ(Kohala):
かつてハワイの島々は、各々、モク(moku)と呼ばれる複数の地区に分割・統治されていました。
モクはさらに、山頂から海岸に至る山の稜線に囲まれた、多数の谷に分割されて、各々をアフプアア( ahupua'a)と呼んでいました。
その中で、「コハラ」 はハワイ島北西部を占めていた、1つのモクの名称です。
そして本文で言う「コハラの谷」とは、コハラと呼ばれるモクの中にある1つの谷、すなわち1つのアフプアアを指していると考えられます。
(N.3) ボーン・ブレイカー(bone-breaker):
ハワイにはルア(Lua)と呼ばれる伝統的格闘技があり、その代表的な技(わざ)の一つが 「骨折(bone breaking)」、すなわち相手の骨を折ることです(*2)。
本文で 「ボーン・ブレイカー」と言っているのは、当人がこの技の名手だったことを示しています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) M.K. Pukui, S.H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.