(前回からの続き )
そよ風がカアラのスカートを揺らす
あの「甘い香りの娘」 カアラには、まさか自分が悲惨な目に遭うとは、思いもよりませんでした(*1)。
というのは、まるで緑の剣の束のように彼女の腰から垂れ下った、ラーイー(ドラセナ)の長い葉を、遊び心に満ちたそよ風が、さらさらと音を立てて揺らせていたからです(N.1)。
そして、その葉がねじれたり揺れたりする度(たび)に、柔らかく円熟した体が見え隠れするのでした。
カアイアリイの心を奪う
その彼女の魅力が、ある男を惹きつけて、夢中にさせてしまいました。
彼は、大王に仕える勇者たちの中の1人でした。
この、彼女の魅力に心を奪われた男こそが、勇敢な若き戦士・カアイアリイでした。
血塗られた戦場の勇者
この若者はかつてマウナレイ、あのラナイ島最後の血塗られた戦い、に加わったことがありました。
筋骨たくましい両腕で、彼は長い槍を巧みに操(あやつ)りました。
そして逃げ惑(まど)う敵を、そら恐ろしい断崖の天辺(てっぺん)へと追い上げたのです。
さらに、追い集められうろたえ怯(おび)える、敵兵たちの悲痛な叫び声にも耳を貸さず、力ずくで長槍を突いては怒鳴(どな)りかかり、彼らを断崖の端へ追い詰めました。
そして彼らは遂に、あたかも恐怖に怯(おび)える羊(ひつじ)のように、深くて真っ暗な峡谷に飛び込んで行ったのです。
彼らの遺体は引き裂かれ、ギザギザに尖(とが)った沢山の石が、下方に撒(ま)き散らされました。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ラーイー (la-i or lāʻi) :
ラーイー は植物の葉のハワイ語名で、その英名はティー・リーフ(Ti reef ) です(*2)。
そして、その植物の英名は "ti plant" で、学名は "Cordyline fruticosa"、和名はセンネンボクです。ハワイ語名は "kī" ですが "ti(ティー)" と発音する人が多いと言われます。
なお、原文では "la-i(Dracaena)" と記されています。ここで、括弧内の "Dracaena(ドラセナ)" は 、"Cordyline fruticosa" の異名(Synonym)である "Dracaena terminalis" の、前半部分(属名)と考えられます。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) M.K. Pukui, S.H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.