(前回からの続き)
水浴びをしたい
ある日、双子の女の子・カウアキオワオが、男の子にこう言いました(*1)。
「私、水浴びをしたいわ。」
そして、水が少しも無い場所に住んだ辛さを訴えました。
それを聞いた男の子は、こう言って彼女を宥(なだ)めました。
「ここは安全な場所なんだ。
そして此処(ここ)なら、義母も探しに来ないと思うんだ。」
そうは言いながらも彼は、幾らかの水を彼女に手に入れてあげよう、と思ったのでした。
あの池から水を引こう
彼は日頃から、果実やグリーンズを探して、彼らが住む丘の近くを行き来していました。
ですから丘の東の方に、大きな雨水溜池があるのを知っていました。
その池はカナワイと呼ばれていました。
彼は時々そこに来ては、輪なわを使って、野生のアヒルを捕(つか)まえていました。
さらにまた彼は、水の神(モオ)・カケアに会ったことがあり、知り合いでした(N.1)。
この神はマノア渓谷とマキキ渓谷の、全ての水源を担当しその管理をしていました。
この水の神は、子供たちの母方の先祖の1人でした。
そして、ワアヒラの雨とは、とても親密な間柄にありました(N.2)。
水の神にお願いする
男の子はこの神を訪ねて行き、こうお願いしました。
「水路を開きたいのです、どうかお力をお貸して下さい。
あのカナワイの池から『ここ』までです。」
彼が『ここ』と指差したのは、彼と女の子が住むほら穴の前で、すぐ下にある場所でした。
高齢な水の神は、若い親族の願いを聞き入れた上に、こう約束してくれました。
「近くにある、ワイレレの泉の水を分けてあげよう、そしてお前が造る水路に流してあげよう。
そうすれば、お前の水路には永遠に水が流れ続けるだろう。」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) モオ(moo) :
モオ(mo'o)は、アウマクア('aumakua)と呼ばれる守護神(家族神)の一つです。
アウマクアでは神となった先祖が、色々な動物・植物・物体に化身してこの世に現われます。その中で、小さなトカゲ、爬虫類、大蛇などに化身した守護神をモオと呼びます。モオには天候や水をコントロールする力があり、養魚池(fishpond)などに住むと言われます。
(N.2) ワアヒラの雨(Waahila rain) :
「ワアヒラの雨」 は、双子のうちの男の子である、カウアワアヒラ(Kauawaahila)の愛称です。
ワアヒラは 「ヌウアヌ渓谷とマノア渓谷に降る雨」を意味するので、ほぼ同地域の水源を担当する「水の神」と親密なのは、当然のことでしょう(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅻ. The Punahou Spring. Mrs. E. M. Nakuina, p.133-138
(*2) Pukui & Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, Waʻa-hila(p.375).