(新しいお話しの始め)
「ワアヒラの雨」 と 「山の霧」
その昔、カアラの山に、カハアケアと言う名の首長が住んでいました(*1)(N.1)。
彼には双子の子供、男の子と女の子がいましたが、母親は2人を産むと直ぐに死んでしまいました。
この男の子はカウアワアヒラ(ワアヒラの雨)、そして女の子はカウアキオワオ(山の霧)と呼ばれていました(N.2)(N.3)。
カハアケアは母のいないこの子らを、とても思いやり深く愛していました。
そしてしばらくすると、彼は新しい妻を迎えました。
その時、彼はこんな風に思ったのでした。
「これで子供たちにも、身の回りの世話をして愛情を注いでくれる、母親が出来た。」
2人を憎む義理の母
彼の新しい妻はハウェアと言い、前の夫との間に一人の男の子がいました。
その子は体が不自由で顔つきも醜い子でしたが、片や双子の2人はとても魅力的でした。
義理の母は彼らの魅力に、嫉妬するようになりました。
そして誰もが彼らに見惚(と)れることを、腹立たしく思いました。
それもそのはず、彼女の実の子には誰一人目を留めず、たまに見ても嫌(いや)そうな顔をされるだけでしたから。
父親が目の前にいる時は、彼女は双子にとても気を遣っていました。
しかし心の中では強い憎しみを抱き、この上なく激しく彼らを嫌(きら)っていました。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) カアラ山(Kaala Mountains) :
カアラ山とは、オアフ島の西側を走るワイアナエ山脈(Wai'anae Range(/Mountains))の主峰の呼称です。標高は1,227mで、コオラウ山脈(Koʻolau Range)の山々を含めたオアフ島全体の最高峰です。
(N.2) ワアヒラ(Waahila):
「ワアヒラ」とは、ヌウアヌ(Nuʻu-anu)とマノア(Mānoa)の谷に降る雨の呼称です。また、マノアとパロロ(Palolo)の谷を分かつ尾根の名前でもあります(*2) 。
(N.3) キオワオ(Kiowao):
「キオワオ」とは、山などに降る冷たい雨で、風と霧を伴うものの呼称です。時には、ヌウアヌに降る雨を指すこともあります(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅻ. The Punahou Spring. Mrs. E. M. Nakuina, p.133-138.
(*2) Pukui & Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.154,375.