(前回からの続き)
父は義母を信じていた
それは双子の子供たちが、ちょうど十歳位になった時のことでした(*1)。
彼らの父はハワイ島に出かけるため、長期間、家を留守にしなければなりませんでした。
その時の父は、子供たちを妻と一緒に残すことに、何の不安も感じませんでした。
と言うのは彼女はいつも、子供たちを大変愛している振りをしていたからです。
そして本当の気持ちを夫に覚られぬよう、隠し続けていたからです。
しかし、夫が十分遠く離れるや否や、義母の態度は大きく変わりました。
彼女は残された可哀そうな子供たちに、ちょっとした虐待を繰り返し始めたのです。
神のご加護を祈る
その子らの実母は、死を前にして 「ウハエ・イア(uhae ia)」 だったようです。
そこである親族たちは、自ら神に祈り、神官に祈祷してもらい、さらに断食なども行いました。
また、幾らかのアヴァ、汚れや傷の無い黒ブタ、赤い魚をはじめ、あらゆるお決まりの供物(くもつ)を用意しました(N.1)。
そして親族たちは、こんなふうに神に祈願したのでした。
「故人の霊の力をもっと強くして、親族により近づいて守護させて下さい。
そしてその霊に、この世の色々な出来事を操(あやつ)る力、をお授(さず)け下さい。」
ですから、義母ハウェアが子供たちを虐待し始めたら、
きっと実母の霊が彼らを助け、護ってくれることでしょう。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) アヴァ(awa) :
アヴァは、南太平洋で広く飲まれる伝統的飲料カヴァ(kava)を指すハワイ語です。植物のカヴァ(学名:Piper methysticum)の根を砕いた粉末に、水を加えて漉(こ)して作ります。泥水状の飲料で鎮静作用があり、酒に酔ったような気分になると言われます。神に捧げる神聖な飲料として、古くから極めて重要な役割を果たして来ました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅻ. The Punahou Spring. Mrs. E. M. Nakuina, p.133-138.