(前回からの続き)
島はずれのハナに行って来い!
使者のエレイオは、「ハナに行って、王のためのアヴァを取って来い。」と命じられました(*1)(N.1)。
さらに、「王の晩餐会に間に合うようにな!」 と言われたのです。
その時、王のカカアラネオはラハイナに住んでいました。
エレイオには霊が見える
さて、エレイオはクキニ(使者)であるだけでなく、カフナでもありました(N.2)。
そして諸々の宗教的な儀式の手ほどきをして、その伝統を守って来ました。
そのなかで彼は、魂や霊を見ることが出来るようになりました。
また医術や呪術(じゅじゅつ)をはじめ、色々なことを修得しました。
そして今では、この世をさまよっている霊を、人の体に戻せるようになったのでした。
但し、その体が腐敗し始めていない限りですが。
前方に美しく若い女性が
それはオロワルを出てしばらく後、彼がアアラロロアの坂を上り始めた時のことです。
前方に、美しく若い1人の女性が見えて来ました。
女性を見つけた彼の歩みは、おのずと速くなりました。
-- その魅力的な女性、旅の仲間、に追いつこうとしたのです。
ところが、いくら追いつこうとしても、追いつけないのです。
いつまでたっても、彼女は彼のはるか先にいるのです。
燃え上がる闘志
その当時、まさに彼こそが最も俊足で、そして一番名を知られたクキニでした。
その彼がたとえ短区間とは言え、1人の女性に追いつけないとは!
プロとしての誇りが、彼の闘志を燃え上がらせました。
そして 「絶対に追いついてやる!」 と心に決め、
あらん限りの体力と精神力を注ぎ込み、彼女を追い駆け始めました。
一方、その若い女性はと言うと、相変わらず彼の前をどんどん進みます。
-- 岩場を越え、丘、山、深い谷、断崖絶壁、そして深い流れを、次々と越えて行きます。
その勢いはすさまじく、追いかける彼の方が疲れ果てる程でした。
こうして彼らはカウポを越えて、カヒキヌイにあるハナマヌロアのラエ(岬)までやって来ました。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) アヴァ(awa):
南太平洋諸島にはカヴァ(kava)と言う飲料がありますが、ハワイではそれをアヴァ('awa)と呼んでいます。
アヴァには精神活性作用があることから、宗教的儀式などでも飲まれていました。
(N.2) カフナ(kahuna):
かつてのハワイ社会には4つの階級があり、最上位が王族で2番目がカフナでした。
カフナは様々な分野の専門家から成り、神官、呪術者、医者、ヒーラー(マッサージ師)、工芸家、カヌー大工などがいました。
このお話しの主人公エレイオは、「さまよう霊を人の体に戻せる」としているので、ハワイ語で言う「カフナ ポイ ウハネ(kahuna poʻi ʻuhane)」、英訳すると"spirit catcher" だったことがわかります(*2)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 14. Ahuula ; A Legend of Kanikaniaula and the First Feather Cloak, Mrs. E. M. Nakuina, p.147-155.
(*2) M. K. Pukui et al.(1972): Nānā i ke kumu (Look to the source), Volume 1. p.194.