夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

128 アフウラ:(2) クキニよりも速い女


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(前回からの続き)

島はずれのハナに行って来い!

使者のエレイオは、「ハナに行って、王のためのアヴァを取って来い。」と命じられました(*1)(N.1)。

さらに、「王の晩餐会に間に合うようにな!」 と言われたのです。

 

その時、王のカカアラネオはラハイナに住んでいました。

 

 

エレイオには霊が見える

さて、エレイオはクキニ(使者)であるだけでなく、カフナでもありました(N.2)。

そして諸々の宗教的な儀式の手ほどきをして、その伝統を守って来ました。

 

そのなかで彼は、魂や霊を見ることが出来るようになりました。

また医術や呪術(じゅじゅつ)をはじめ、色々なことを修得しました。

 

そして今では、この世をさまよっている霊を、人の体に戻せるようになったのでした。

但し、その体が腐敗し始めていない限りですが。

 

前方に美しく若い女性が
それはオロワルを出てしばらく後、彼がアアラロロアの坂を上り始めた時のことです。

前方に、美しく若い1人の女性が見えて来ました。

 

女性を見つけた彼の歩みは、おのずと速くなりました。

-- その魅力的な女性、旅の仲間、に追いつこうとしたのです。

 

ところが、いくら追いつこうとしても、追いつけないのです。

いつまでたっても、彼女は彼のはるか先にいるのです。

 

燃え上がる闘志

その当時、まさに彼こそが最も俊足で、そして一番名を知られたクキニでした。

その彼がたとえ短区間とは言え、1人の女性に追いつけないとは!

 

プロとしての誇りが、彼の闘志を燃え上がらせました。

 

そして 「絶対に追いついてやる!」 と心に決め、

あらん限りの体力と精神力を注ぎ込み、彼女を追い駆け始めました。

 

一方、その若い女性はと言うと、相変わらず彼の前をどんどん進みます。

-- 岩場を越え、丘、山、深い谷、断崖絶壁、そして深い流れを、次々と越えて行きます。

 

その勢いはすさまじく、追いかける彼の方が疲れ果てる程でした。

こうして彼らはカウポを越えて、カヒキヌイにあるハナマヌロアのラエ(岬)までやって来ました。

 

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) アヴァ(awa): 
南太平洋諸島にはカヴァ(kava)と言う飲料がありますが、ハワイではそれをアヴァ('awa)と呼んでいます。

アヴァには精神活性作用があることから、宗教的儀式などでも飲まれていました。

 

 

(N.2) カフナ(kahuna): 

かつてのハワイ社会には4つの階級があり、最上位が王族で2番目がカフナでした。

カフナは様々な分野の専門家から成り、神官、呪術者、医者、ヒーラー(マッサージ師)、工芸家、カヌー大工などがいました。

このお話しの主人公エレイオは、「さまよう霊を人の体に戻せる」としているので、ハワイ語で言う「カフナ ポイ ウハネ(kahuna poʻi ʻuhane)」、英訳すると"spirit catcher" だったことがわかります(*2)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 14. Ahuula ; A Legend of Kanikaniaula and the First Feather Cloak, Mrs. E. M. Nakuina, p.147-155.

(*2) M. K. Pukui et al.(1972): Nānā i ke kumu (Look to the source), Volume 1. p.194.