(前回からの続き)
王はぐっすり寝入っていた
王の寝家(ねや)では、誰も彼もが眠入っていました(*1)。
その中で老女が唯1人で、ククイ・ナッツの灯(あか)り番をしていました。
王オアフヌイは手足を大の字に伸ばして、何枚も積み重ねた柔らかいマットの上で寝ていました。
マットの表面はパイウラ、古くから王家に伝わる赤いカパ布、で覆われていました(N.1)。
この残酷な恥知らず者は、喉から手が出るほど欲しかった、あの忌(い)まわしい料理を、食べ過ぎてしまったのでした。
その上にアヴァを浴びるほど飲んだので、酔っ払ってぐっすり寝込んでいました(N.2)。
レフアヌイが手斧で威嚇する
レフアヌイは手斧(ておの)を持ち、威嚇(いかく)するように彼の前に立つと、大声で言いました。
「おお、王よ。私の子らは何処(どこ)だ?」
呆然(ぼうぜん)とした王は、只々(ただただ)不安そうに体を動かしただけでした。
彼は目を覚まそうともしませんでした。いや、とても出来なかったのかも知れません。
王の首を切り落とす
レフアヌイは大きな声で3度、彼に呼びかけました。
酔い潰(つぶ)れたこの残虐な男、こいつが肉と血をガツガツ食べたのだ。
その男を目の前にして、父の怒りは極限に達したのでした。
彼は遂に、オアフヌイの首に石斧で切りかかりました。
そしてたったの一撃で、王の頭を胴体から切り落としてしまいました。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) パイウラ(paiula):
パイウラ(paʻiʻula)とは、赤いカパ(kapa)の布切れを、新しいカパ布用の樹皮と一緒に叩(たた)いて作ったカパ布の一種です。こうすることで、赤色が白色と混合したカパ布が出来上ります(*2)。
なお、カパ布の樹皮は複数種の木から採取出来ますが、代表的なのがハワイ語でワウケ(wauke)と呼ばれる木です(和名カジノキ; 学名Broussonetia papyrifera)。
(N.2) アヴァ(awa):
アヴァは、幅広くポリネアシア各地で見られ、カヴァ(kava)と呼ばれることが多い飲料です。かつては神に捧げられた神聖な飲物でしたが、人々にも酒の代わりとして愛飲されました(*2)。
アルコール分はありませんが、原材料である植物アヴァの根には麻酔成分が含まれ、薬用としても利用されたそうです。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 13.Oahunui. Mrs.E.M.Nakuina, p.139-146.
(*2) M.K. Pukui, S.H. Elbert(1986): Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.