夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

087 カハラオプナ:(12) カハラオプナの再生

(前回からの続き)

守護神がカハラオプナを救い出す

カウヒが行ってしまうとすぐに、大きなフクロウが現われました(*1)(N.1)。

 

 

このフクロウは神であり、またカハラオプナの親族でもありました(N.2)。

そして家からずーっと、彼女の後について来たのでした。

 

フクロウは直ぐさま、彼女の体を掘り出しにかかりました。

それが済むと、羽を使って注意深く、体の汚れを払い落としました。

 

それから、この女性の鼻の孔に息を吹き込んで、彼女を生き返らせたのでした。

 

そして今度は、自分の顔を彼女のこめかみの傷に、こすりつけました。

こうして一瞬のうちに、彼女の傷も治してしまいました。

 

カウヒが彼女の再生を知る

一方、カウヒの方は、未だそう遠くまで進んでいませんでした。

そこで彼は、カハラオプナの声に気付いたのでした。

 

その声は、彼の無情な仕打ちを嘆き歌っていました。

 

そこでは、彼女を信じてくれるよう、彼に懇願していました。

さらに、せめて彼の主張の真偽を確かめて欲しい! と訴えていたのでした。

 

この彼女の声を聞いて、カウヒはもと来た道を引き返しました。

すると彼女の頭上には、フクロウが飛んでいました。

 

 

これを見た彼には、彼女がどのようにして生き返ったかが、分かりました。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) フクロウ(owl):

ここでいう「フクロウ」は、日本でも見られる 「コミミズク(学名:Asio flammeus)」 の 1亜種です。

ハワイ語名は 「プエオ(pueo)」、学名は "Asio flammeus sandwichensis"で、ハワイにだけ生息するのでハワイの固有亜種です。

(N.2) 神でありかつ親族(a god, and a relative):

ハワイでは死後、人々は神となって親族である子孫を見守る、と考えられています。そして時には子孫を助けるため、色々な形を取ってこの世に現われます。その形はサメ、フクロウ、エレパイオ(鳥)など、多種多様です。これらは神となった祖先(家族神)の化身であり、アウマクア(aumakua)と呼ばれています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

086 カハラオプナ:(11) カハラオプナの死

(前回からの続き)

カハラオプナの懇願

この思いもよらぬ言葉に、若い女性は驚いて、彼の顔を見上げました(*1)。

しかし、カウヒの目の中にあるのは、憎悪と殺意だけでした。

 

そこで彼女は言いました。

「もし私が死なねばならぬなら、なぜ私を自分の家で殺さなかったの? 

そうすれば、召使たちが私の骨を埋めることが出来たのに。

 

 

しかしあなたは私を、この原生林に連れて来てしまった。

ここで、一体、誰が私を葬ってくれるの?

 

その前に、もし私がずーっと、あなたを裏切り続けていると思うなら、

なぜ、それを信じる前にその証拠を探さないの?」

 

カウヒの一撃で死ぬ
しかし、この彼女の必死の願いも、カウヒは聞こうとしませんでした。

 

恐らくそれは、彼の脳裏にこんなことを思い起こさせた、唯それだけだったのでしょう。

「あれこれ考えた所で、結局は大きな無駄になるだけだ。」

 

彼は彼女のこめかみを、ハラの実の房で殴(なぐ)りつけました。

 

そのずっしりと重い実は、マヒナウリでちぎり取ったものでした。

彼はそれを、今まで肌身離さずに持っていたのでした。

 

 

その実の一撃で、女性は死んでしまいました。

カウヒは急いで岩の脇に穴を掘ると、彼女を埋めました。

 

そして彼は、ワイキキの方角に向かって、谷を下りて行きました。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

085 カハラオプナ:(10) 君は死なねばならぬ

(前回からの続き)

不機嫌そうなカウヒ

彼女の出かける準備が済むと、彼はついて来るよう合図しました(*1)。

そして一言も無く、背を向けて歩き出しました。

 

彼らはクマカハを通リ過ぎてフアレアに行きました。

その時、女性が言いました。

 

「一休みして、何か食べてから行きませんか?」

 

彼は、ずいぶんと不機嫌そうに答えました。

「私は何も食べたくない、食欲が無いんだ。」

 

怒らせたのは君だ

こう言いながら、彼はとても厳しい表情で、彼女を睨(にら)みつけました。
そこで彼女は、彼に向かって大声でこう叫びました。

 

「あなた、私のことを怒ってるの?

私、何か気に障ることでもした?」

 

彼はただ、こう言いました。

 

「なぜって? 君が仕出かしてくれたこと、

あれで腹が立っているんだ!」

 

君は死なねばならぬ

彼は進み続け、彼女はその後からついて行きました。

そして、アイフアラマの大きな石の所まで来た時のことです。

 

 

彼はいきなり振り向くと、後ろの若い女性と向き合いました。

彼女を見つめる彼の表情には、強い恋心と激しい憎しみが、入り混じっていました。

 

長い沈黙の後、深いため息をついて、遂に彼が口を開きました。

「君は美しい、私の許嫁(いいなずけ)だ。


しかし、君はずーっと裏切り続けている。

だから君は死なねばならぬのだ。」

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

084 カハラオプナ:(9) 嫉妬で怒り狂うカウヒ

(前回からの続き)

愛らし過ぎたカハラオプナ

彼は恐らく、カハラオプナが家から出て来たその時に、彼女を殺そうと考えていたのでしょう(*1)。

ところがその女性は、何のためらいもなく彼に言われるがままで、しかもその姿は余りにも愛らし過ぎました。

 

その様子を目の当たりにして、彼は暫(しばら)くの間、戸惑ってしまいました。

そして魅せられたように、じっと彼女を見つめていました。

 

それから彼は、彼女にこう言いました。

 

「水浴びに行きなさい。

その後で森を散歩するので、私について来る準備をしなさい。」

 

 

カハラオプナの眩(まばゆ)い光

カハラオプナが水浴びをしている間、カウヒは不機嫌そうな表情で、ずーっと座っていました。

 

そして、まぶしい程にぱっと輝く光を、じっと見つめていました。

それは虹から放たれる光線群のように、泉の上を軽やかに動き回っていました。

 

カウヒの心が揺れる

彼の心は揺れ動き、ある時は嫉妬で、ある時は後悔の念で満ち溢(あふ)れました。

そしてまたある時は、この女性のこの上ない美しさを恋しく思ったのでした。

 

しかしそれでもまだ、彼の恐ろしい決意が揺らぐことは、ありませんでした。

 

嫉妬で怒り狂うカウヒ

彼は巷(ちまた)で噂されている婚約者の不貞を、より一層腹立たしく思ったようでした。

 

なぜって、彼女はあんな価値のない奴らに、夢中になったのですから。

それだけじゃない。奴らは道徳的にも卑劣だし、容姿だって醜いじゃないか!

 

それに比べると、カウヒの方は身分が高く名士でもありました。

しかも、男としてのカッコ良さだって、かなりのものなのです。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

083 カハラオプナ:(8) 義理堅いカハラオプナ

(前回からの続き)

カウヒがカハイアマノに着いたのは、ちょうどお昼頃でした(*1)。

それから彼はすぐに、カハラオプナの家の前に姿を現しました。

 

カハラオプナの目覚め

その時、彼女はちょうど目を覚ましたところでした。

 

そして、重ね合わせたマットの上に横になりながら、ドアの方に顔を向けていました。

「いつも水浴びをするあの泉に行こうかしら?」 と考えていたからです。

 

そこで彼女は、ドアの所に見知らぬ人がいるのに気付きました。

 

 

目の前に婚約者が!

そしてその男に目を向けると、しばらくの間じっと見つめていました。

それに加えて、これまで幾度も繰り返し聞かされてきた話しから、彼女には彼が誰なのかが判りました。

 

そこで彼女は、彼を家の中に招き入れようとしました。

しかしカウヒはそれを断り、彼女が外に出て来るよう求めました。

 

義理堅いカハラオプナ

さて、この女性はまだほんの幼い頃から、ずーっとこんな風に思い続けて来ました。

「自分はカウヒのものだ。そして、日々の食物でも世話になっているので、彼には恩義がある。」

 

そこで、彼女は躊躇(ちゅうちょ)することなく、彼の言葉に従ったのでした。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

082 カハラオプナ:(7) カウヒの怒りと決意


(前回からの続き)

カウヒの決意

このような悪い噂は、かなり頻繁(ひんぱん)に聞こえて来ました(*1)。

そのためカウヒはやがて、この噂を信じるようになったのでした。

 

彼の心の中は、婚約者への嫉妬と激しい怒りで溢(あふれ)れ返りました。

そして遂に、彼は彼女を殺そうと決意したのでした。

 

マノア渓谷に向かう

夜明けとともに彼は、婚約者カハラオプナが住む、マノア渓谷に向けて出発しました。

 

ちょうど渓谷の中ほどのマヒナウリまで進んで、ひと休みしました。

そこはウィリウィリの林の中に生えていた、一本のハラの木の下でした(N.1)(N.2)。

 

 

暫(しばら)くの間、彼はそこで腰を下ろしていました。

 

そしてある時は、自虐的になり自分を痛め付けようと、あれこれ思い詰めました。

またある時は、激しい怒りに駆られ、復讐心を燃え上がらせたのでした。

 

再び歩き始めた時、彼は一房のハラの実をもぎ取って持っていました。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) ウィリウィリ (Wiiwili):

ウィリウィリは、学名Erythrina sandwicensisの樹木のハワイ語名です。この樹木はハワイの固有種で、風下側の乾燥した地域に自生します。

比重が小さいので、カヌーのアウトリガー、魚網の浮き、サーフ・ボードなどに使われました。

(N.2) ハラ (Hala) :

ハラは、学名Pandanus tectoriusの樹木のハワイ語名です。このハラはハワイの在来種で、その葉はラウハラと呼ばれて、かつてはマットや屋根葺き材をはじめ、数多くの日常生活用品に加工されました。

雌雄異株で雌株はパイナップルに似た形の実をつけ、大きなものは20〜30cmにもなると言われます。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

081 カハラオプナ:(6) 悪い噂が広まる

(前回からの続き)

ワイキキで大暴れ

ワイキキにいる間、「あかんべーの男たち」 は勝手気ままに振る舞い、

「あの有名な美女を口説き落とした。」 と豪語して回ったものでした(*1)。

 

そして、着飾っていた彼らのレイを見せつけては、

「カハラオプナからの愛の贈り物だ。」と、大ぼらを吹いていました。

 

島じゅうのサーファーたちが集まる

 

 

さて、かつてワイキキにはカレフアウェヘと呼ばれる、有名なサーフ・ポイントがありました(N.1)。

波の状況が良くなると、この島のありとあらゆる場所から、人々がここにやって来て、あの素晴らしいスポーツを楽しむのでした。

 

カハラオプナの婚約者である、カウヒもその中の一人でした。

 

 

カウヒの耳にも彼女の噂が

一方、カウヒがカハラオプナと結婚する日は、どんどん近づいていました。

しかし彼は未だ一度も、彼女と会ったことがありませんでした。

 

そんな中で、2人のマカヘレイ(あかんべー)の男たちの豪語が、彼の耳にも聞こえて来ました。

「あの有名な美女を口説き落とした。」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) カレフアウェヘ(Kalehuawehe):

レフアウェヘはオアフ島のワイキキにあり、古くから知られるサーフ・ポイントです。オアフ島サウスショアの中では最も波が大きいことで有名です。 なお、現在は キャッスルズ(Castles) と呼ばれています(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

(*2) M.K.Pukui et al.(1974): Place Names of Hawaii, Revised & Expanded Edition, p.76.