(前回からの続き)
この中に愛する人がいる
しかし愛する人が、この沸き返り渦巻いている、大きな穴の中にいるのです(*1)。
その彼にとって、この荒れ狂う奔流が何だというのでしょうか?
一体全体、この沸き立つ泡の真っただ中で、何を確かめようと言うのだ!
上向きになって彼を見上げる彼女の顔?
愛(いと)おしく若々しい彼女の体?
いや、もはや、何もかもがぶち壊(こわ)され、息絶えた愛する人?
荒れ狂う海に飛び込む
あなたなら、この瀬戸際で悶(もだ)え苦しむかも知れません。
しかしマカケハウは躊躇(ちゅうちょ)なく、この凄(すさ)まじいよどみの中に飛び込みました。
そして海の墓穴の入口から、嵐に殺された彼の花嫁を、力ずくで奪い取ったのでした。
人々がプウペヘの死を知る
その翌日、漁師たちはマカケハウの哀歌を聞きました。
そして同じ谷に住む女たちは、プウペヘの下にやって来て、彼女の死を嘆き悲しみました。
彼女らはプウペへを、華やかで新しいカパ布で包みました。
そしてその遺体の上に、香り高いナーウー(クチナシ属)の花輪を捧げました(N.1)。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ナーウー(na-u):
ナーウーはクチナシ属(Gardenia)の植物で、ハワイには3つの固有種(G.brighamii, G.mannii, G.remyi)が生育しています。このクチナシ属の植物は日本でも見ることが出来、その中の1種であるクチナシ(学名: G.jasminoides)は、強い芳香で知られています。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe, A Legend of Lanai, From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.