(新しいお話の始め)
「クキニ」はプロの使者
エレイオはクキニ(熟練した使者)で、マウイ島の王カカアラネオに仕えていました(*1)(N.1)。
当時の王や有力なアリイ(首長)たちは各々、常に何人かのクキニを抱えていたのです。
どんな使いを命じられようと、彼らはいつも一直線に目的地を目指しました。
まるでヤギのように機敏に丘を登り、岩や流れを飛び越え、そして断崖絶壁から飛び降りるのです。
ラワルを焼く暇も無い
彼らがあまりに俊足だったので、ハワイの人々の間では、よくこんな風に例(たと)えられたものでした。
「クキニが使いを命じられると、普通ならまる一昼夜かかりそうなことも、あっという間だ。
何しろ、あいつらが出発する時に、キーの葉に包んだ魚(ラワル)を火にかけると、
まだ片面が十分焼けず、ひっくり返せないうちに、もう戻って来るんだから。」
特別の待遇を受ける
このようにクキニは、首長にとって大変有益で重要な存在でした。
そこで彼らはいつも高い評価を受け、自由を満喫していました。
また、厳格なしきたりに縛られることもなく、さらに慣習法に基づく王のお裁きも免れました。
彼らのご主人が持ち歩く物の中には、高価な物などほぼ何もありませんでした。
ですから彼らが盗(と)ろうとしても、そんな物は手に入らなかったでしょう。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) カカアラネオ(Kakaalaneo):
カカアラネオは当時のマウイ島の王で、このお話し以外にも、幾つかの伝説に登場する有名な王です。
島の南東部ラハイナ(Lahaina)に近いケカア(Keka'a)に住んでいたと伝えられています(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 14. Ahuula ; A Legend of Kanikaniaula and the First Feather Cloak, Mrs. E. M. Nakuina, p.147-155.
(*2) Martha Beckwith(1970): Hawaiian Mythology. p.384.