夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

113 プナホウの泉:(9) マノア渓谷に隠遁(いんとん)する


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(前回からの続き)

故郷のカアラに帰る

その後、「山の霧 」と 「ワアヒラの雨」は、カアラにある幼少期を過ごした家に帰りました(*1)(N.1)。

 

 

しばらくそこに滞在しながら、彼らは時には、コナフアヌイやマノア渓谷の上流を訪れたことでしょう。

今でもこれらの場所に行くと、彼らと偶然出会うかもしれません。

 

プナホウの泉が穢(けが)される

また時には、プナホウも訪れました。

そこは彼らが特別に手をかけて、守って来た場所でした。

 

しかしその土地と泉が外国人らの手に渡ると、状況は大きく変わりました。

この地に豊かさをもたらした双子の子供たちに、彼らが敬意を表することはありませんでした。

 

そして大切な泉が穢(けが)されても、気にも留めませんでした。

泉で汚れた物を洗ったり、汚れた体で水浴びしても、止めようとしないのです。

 

これを見かねた双子の子供たちは、憤然としてこの地を去りました。

そしてマノア渓谷の一番奥に隠遁したのでした。

 

 

カナワイの雨水溜池が干上がる

彼らはカアラやコナフアヌイに行く途中、

時々、かつて住んでいた場所を、スーッと通り過ぎたりします。

 

そんな時、ロッキー・ヒルの辺りを暫(しばら)くの間、悲しそうにウロウロすることもあるでしょう。

 

雨水(溜)池のカナワイは、今ではいつも干上がっています。

生い茂っていた灌木(かんぼく)などが、無くなってしまったからです。

 

双子の子供たちが食べた木の葉や若芽も、今はもうありません。

神々のお気に入りだった彼らの、大切な食物だったと言うのに。

 

地元の古老たちは、こう言います。

「あのむき出しの丘や平地では、彼らを惹(ひ)きつけるのは無理だろう。

 

何故(なぜ)って? 優しい雨たち、ウアキオワオとウアワアヒラが来たところで(N.2)、

食べ物なんか、何も見つからないんだから。」

(終わり)

 

(ノート)

(N.1) 山の霧(Mountain Mist), ワアヒラの雨(Waahila Rain)

「山の霧 」は 双子の女の子、そして 「ワアヒラの雨」は、双子の男の子の愛称です。

(N.2) ウアキオワオ(Uakiowao) と ウアワアヒラ(Uawaahila) :

「ウアキオワオ」は双子の女の子(山の霧)、「ウアワアヒラ」は男の子(ワアヒラの雨)の名前です。

お話しの始めの段階では、2人の名前に定冠詞(Ka)が付加され、各々"Ka-uakiowao"、"Ka-uawaahila"とされていましたが、同じ人物を指しています。

なお、この定冠詞を除いた2人の名前の、頭部の2文字は2人共"Ua"で、こちらは「雨」を意味する接頭語です。

 

(注記);

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅻ. The Punahou Spring. Mrs. E. M. Nakuina, p.133-138.