夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

171 カアラとカアイアリイ:(25) カアイアリイが走る


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(前回からの続き )

ウアが泣きながら話す

「そうではないんです。」 と、ウアが泣きながら言いました(*1)。
その時、少女の愛らしい瞳(ひとみ)からは、優しい涙が溢れ出ていました。

 

「あなたの愛する人は、この谷にいません。

そして、彼女のお母さま(カラニ)の家にも未だ着いていないのです。

 

しかしカルルの丘にいたカナカたちは、彼女の父が娘を連れてクモクの森を通り過ぎるのを、見ています(N.1)。

 

そしてその後でカアラを見かけた人は、誰もいません。

ひょっとして彼女が、あなた方の愛を妨害する悲運に巻き込まれたのでは? と思うと、私は怖くてたまらないのです。」

 

カアイアリイが激怒する

「カアラがいない?
ああ、心臓から血の気が引いて行く!」

 

もはや彼はそれ以上、何も聞こうとしません。

 

激怒した首長は憤懣(ふんまん)やるかたなく、気が狂ったように大空に殴りかかります。

そして石だらけの丘を、上に向かって突進して行きます。

 

頑丈で若く野生的に発達した筋力で、彼は上へ上へと向かい、少しも休まず速度も落とさずに、飛ぶようにして谷の尾根筋まで進み続けます。

そして次は、その斜面を駆け下りて行きます。

 

カアラの足跡だ、 そしてはるか先には

それから彼は、明るく光り輝く緑の平原を進みます。

 

埃(ほこり)っぽい小径(こみち)で、彼はいくつかの足跡を見つけます。

それは愛する人のものに違いありません。そこで彼はその足跡を追いかけます。

 

彼の胸が高鳴ります。今や足の痛みもなければ、息切れもありません。

 

そして、走りながら注意深くあたりを見回している彼が、はるか前方の平原に、あのうそつきの父親が1人でいるのを見つけます。

 

 

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) カルル(Kalulu), クモク(Kumoku);

これらは2つとも既出の地名で、マハナに向かったカアラと父が通り過ぎた場所の名前です。2人はここでマハナに通じる道から外れて、海の方角に向かい始めました。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.