(前回からの続き )
ウアが泣きながら話す
「そうではないんです。」 と、ウアが泣きながら言いました(*1)。
その時、少女の愛らしい瞳(ひとみ)からは、優しい涙が溢れ出ていました。
「あなたの愛する人は、この谷にいません。
そして、彼女のお母さま(カラニ)の家にも未だ着いていないのです。
しかしカルルの丘にいたカナカたちは、彼女の父が娘を連れてクモクの森を通り過ぎるのを、見ています(N.1)。
そしてその後でカアラを見かけた人は、誰もいません。
ひょっとして彼女が、あなた方の愛を妨害する悲運に巻き込まれたのでは? と思うと、私は怖くてたまらないのです。」
カアイアリイが激怒する
「カアラがいない?
ああ、心臓から血の気が引いて行く!」
もはや彼はそれ以上、何も聞こうとしません。
激怒した首長は憤懣(ふんまん)やるかたなく、気が狂ったように大空に殴りかかります。
そして石だらけの丘を、上に向かって突進して行きます。
頑丈で若く野生的に発達した筋力で、彼は上へ上へと向かい、少しも休まず速度も落とさずに、飛ぶようにして谷の尾根筋まで進み続けます。
そして次は、その斜面を駆け下りて行きます。
カアラの足跡だ、 そしてはるか先には
それから彼は、明るく光り輝く緑の平原を進みます。
埃(ほこり)っぽい小径(こみち)で、彼はいくつかの足跡を見つけます。
それは愛する人のものに違いありません。そこで彼はその足跡を追いかけます。
彼の胸が高鳴ります。今や足の痛みもなければ、息切れもありません。
そして、走りながら注意深くあたりを見回している彼が、はるか前方の平原に、あのうそつきの父親が1人でいるのを見つけます。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) カルル(Kalulu), クモク(Kumoku);
これらは2つとも既出の地名で、マハナに向かったカアラと父が通り過ぎた場所の名前です。2人はここでマハナに通じる道から外れて、海の方角に向かい始めました。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.