(前回からの続き )
断崖上で彼女を待つ
カアラの姿が谷間に消えてから、ずっと後のことです(*1)。
カアイアリイが断崖上に立ち、愛する人が出かけて行った、あの丘の斜面の小径を見上げていました。
その夜、彼はほんの少しマットの上で寝た後、 海辺を歩いていました。
そして夜明けにはあの断崖にやって来て、再びそこに登ったのでした。
彼の愛する人が丘を下りて来るのを、しっかり見守ろうとしたのです。
現われたのはウアだった
目を凝(こ)らすと、木の葉のスカートが風になびいていました。
彼は可愛い彼女を思い切り抱き締めようと、胸を躍(おど)らせました。
しかし、カールした眉(まゆ)毛が近づくにつれて、彼の心は沈んで行きました。
それは彼が愛する人ではなく、ある悲しい知らせを顔に浮かべた、彼女の友達ウア(雨)だったからです(N.1)。
なぜカアラは戻らないのだ
報われぬ恋に悩む首長カアイアリイは遂に、大急ぎでまた必死に尋ねるような眼差しで、若い女性の使者に会いました。
そして大声で叫びました。
「なぜカアラは、この谷に戻るのが遅れているのだ?
ひょっとすると、彼女が別の男の首に花輪を巻いて、私を破滅させようとしているのか?
それとも、イノシシに引き裂かれてしまったのか?
そうでなければ、死の呪術(じゅじゅつ)者アナアナが、彼女の心臓に襲いかかったのか(N.2)。
そして彼女は、冷たくなってマハナの芝生の上に横たわっているのか?
とにかく早く話してくれ、ウア。
君の顔を見ると、もう耐えられないのだ!」
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ウア(Ua):
ここでのウアは、カアラの友達である女性の名前です。一方、一般的には、ウアは 「雨」を意味するハワイ語です。ハワイには雨を表現する語が沢山ありますが、その中の一つ、ハワイ島ヒロに降る霧雨を表現する語、カニレフア(Kani-lehua)もよく知られています。
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(N.2) アナアナ(anaana):
アナアナは、祈祷と呪文による邪悪な魔術を指すハワイ語で、黒魔術(black magic)とも呼ばれます。このアナアナの前に専門家を指す語「カフナ」を冠した、カフナ・アナアナ(kahuna ʻanāʻanā)は、人を呪い殺す呪術の専門家で、人々から大変恐れられていました(*2)。
![](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/o/o_hanashi/20240603/20240603082419.jpg)
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.
(*2) M. K. Pukui et al.(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.