夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

146 プウペヘの墓:(8) マカケハウの哀歌

(前回からの続き)

プウペヘを墓に納める

マカケハウは亡き愛する人を、墓に納める作業を終えました(*1)。

そして彼女の墓の上に、最後の石を置きました。

 

彼はそれから両腕を広げると、プウペヘの死をこう嘆き悲しみました。

 

マカケハウの哀歌が響く

「 おー、プウペヘよ、一体どこに行ったのだ? 

マラウエアの洞窟の中?

 

おいしい水を持って来てあげようか?

あの山の水を。

 

ウアウを捕まえて来ようか?

それにパラの根、そしてオヘロの実を。

 

 

あなたは今、ホヌ(ウミガメ)を焼いているの?

それから、赤くて甘いハラの実も?

 

 

僕はマウイのカロを叩(たた)こうか?

一緒にヒョウタン容器に浸そうか?

 

鳥や魚は苦(にが)い、

そして山の水は酸(す)っぱい。

 

もう、それを飲むのはやめよう。

 

アイプヒと一緒に飲むことにしよう(N.1)、

あのマネレ湾に棲む巨大なサメと一緒に。」

 

海へ身を投げる

この悲しいうめき声がやむと直(す)ぐに、マカケハウは岩塊上から、沸き立つ大波の中に飛び込みました。

彼の体は大波や岩に叩(たた)き潰(つぶ)され、砕かれてしまいました。

 

この悲しい光景を見守っていた人々は、ズタズタになった遺体をしっかりと保護しました。

そしてこのマカケハウの遺体は、丁寧にマネレの墓地に埋葬されたのでした。

 

 

(終わり)

 

(ノート)

(N.1) アイプヒ(Aipuhi): 

「アイプヒ」とは巨大なサメの名前です。アイプヒが棲んでいた場所はプウペヘ(puupehe)の西隣で、現在は「サメの湾(Shark's bay)」と呼ばれる小さな湾でした。

このアイプヒは、サメの姿でこの世に現れた守護神だ、とも言われています(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.

(*2) Kepā Maly(2014): A Field Guide to Lana'i's  Storied Places, People, Resources, and Historic Events, Dec. 2014 v.2, p.108. 

 

 

145 プウペヘの墓:(7) 岩塊に道は無い

(前回からの続き)

彼女と2人だけにして

彼らは埋葬しようとして、彼女の遺体を準備しました(*1)。

そして、彼女をマネレの墓地に納めようとした、その時でした。

 

マカケハウが、強くこう願い出ました。

「もう一晩だけ、亡き愛する人と、2人だけにさせて下さい。」

 

こうして彼は望み通り、そこに残されました。

 

あの海の岩塊の上だ

ところが次の日、そこには遺体も無ければ、嘆き悲しむ恋人の姿も、見えませんでした。

 

人々が暫(しばら)く探していると、あの岩塊、海にぽつんと立つ塔の上に、マカケハウの姿が見えました。
彼はその天辺(てっぺん)で、黙々と石を積み上げていました。

 

驚いたラナイ島の人々は、近くの断崖上から、その様子を見つめていました。

また、何人かは海にカヌーを出して、柱状の岩塊の周囲を回りました。

 

岩塊に道は無い

それでもまだ、彼らは不思議に思っていることがあります。
なぜって、彼が岩の上まで登った道、の痕跡さえもなかったからです。

 

その上、岩の面はどこも皆、垂直に切り立っているか、そうでなければ海に突き出しているのです。

 

神に助けられた

そこで、古くからこんな風に信じられて来ました。

 

「ある種のアクア(神のような存在)、カネコア、もしくはケアウェマウヒリ(守護神)が、マカケハウの叫び声を聞いて現れたのだろう。

そして彼を助けて、死んだ少女と一緒に、岩塊の天辺(てっぺん)まで導いたのだ。」

 

 

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.

 

 

144 プウペヘの墓:(6) プウペヘの死

(前回からの続き)

 

この中に愛する人がいる

しかし愛する人が、この沸き返り渦巻いている、大きな穴の中にいるのです(*1)。

その彼にとって、この荒れ狂う奔流が何だというのでしょうか?

 

一体全体、この沸き立つ泡の真っただ中で、何を確かめようと言うのだ!

 

上向きになって彼を見上げる彼女の顔?
愛(いと)おしく若々しい彼女の体?

 

いや、もはや、何もかもがぶち壊(こわ)され、息絶えた愛する人

 

荒れ狂う海に飛び込む

あなたなら、この瀬戸際で悶(もだ)え苦しむかも知れません。

 

しかしマカケハウは躊躇(ちゅうちょ)なく、この凄(すさ)まじいよどみの中に飛び込みました。

そして海の墓穴の入口から、嵐に殺された彼の花嫁を、力ずくで奪い取ったのでした。

 

人々がプウペヘの死を知る

その翌日、漁師たちはマカケハウの哀歌を聞きました。

そして同じ谷に住む女たちは、プウペヘの下にやって来て、彼女の死を嘆き悲しみました。

 

彼女らはプウペへを、華やかで新しいカパ布で包みました。

そしてその遺体の上に、香り高いナーウー(クチナシ属)の花輪を捧げました(N.1)。

 

 

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) ナーウー(na-u): 

ナーウーはクチナシ属(Gardenia)の植物で、ハワイには3つの固有種(G.brighamii, G.mannii, G.remyi)が生育しています。このクチナシ属の植物は日本でも見ることが出来、その中の1種であるクチナシ(学名: G.jasminoides)は、強い芳香で知られています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.

 

 

143 プウペヘの墓:(5) 潮を吹く洞窟

(前回からの続き)

マカケハウが走る

マカケハウは、水を蓄えたヒョウタンを荒々しく投げ捨てると、急斜面を駆け下りました。

そして広大な渓谷を横切ると、それを縁取る丘を超えて、突き進みました。

 

 

そこでは嵐の暴風雨が、激しく吹き荒れていました。

彼はその中を悶(もだ)え苦しみながら、丘の斜面を駆け下り、全力で岸辺に向かいました。

 

荒れ狂う海

海面ははっきりと上昇していました。

荒れ狂ったように押し寄せる波の、活き活きとした泡立ちで、岸辺は真っ白でした。

 

襲いかかる大波は、轟音(ごうおん)を立てて岸辺に激突します。

それと呼応するかのように、暴風がビュービューと唸(うな)り声を上げます。

 

あー! この一寸先も見えない嵐の中で、「涙でかすんだ目(マカケハウ)」 は 、

一体どこで、彼の愛する人を見つけろと言うのでしょう?

 

潮を吹く洞窟

山のように盛り上がった海が、マラウエアの洞窟に襲いかかり、その入口を塞(ふさ)いでしまいました。

 

すると洞窟内に閉じ込められた空気は、ブクブクと轟音(ごうおん)を立てながら、侵入した激流を豪快に突き返します。

こうして、洞窟に襲いかかった海水は、壮大な水しぶきの流れとなって、洞窟から吹き出すのです。

 

これはまさに、この世を構成する物質の戦い、自然の猛威の戦いであり、

強健な男たちの闘争心を、くすぐり掻(か)き立てるものでした。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.

 

 

142 プウペヘの墓:(4) 恐ろしい嵐がやって来る

(前回からの続き)

マカケハウは山へ水汲(くみ)に行った

ある日のことです。


マカケハウは、愛する人をマラウエアの洞窟に残して、出かけて行きました(*1)。

彼は山の泉に行って、ヒョウタンで作った水入れに、おいしい水を満たして来ようとしたのです。

 

 

この大きな洞窟は、海面上にせり出した断崖絶壁の足元で、大きな口を開けています。

そしてその断崖絶壁は、プウペヘの岩よりもさらに高く、聳(そび)えています。

 

プウペへは洞窟の中でウミガメを焼いた

海水は洞窟のずーっと奥まで押し寄せて来ます。

 

しかし、中にはまだまだ空間があります。

ですから泳ぎの上手な人ならば、そこまで行き着けるのです。

 

プウペへはしばしば、そこで一休みしました。

そして、出かけている彼女の愛する人のために、「ホヌ」 すなわちウミガメを焼いたものでした。

 

 

今は恐ろしい嵐の季節

島のコナでは、この時期は恐ろしい嵐の季節でした(N.1)。

 

その恐ろしい嵐は、赤道のあたりで発生します。

そして、大海原で大きく成長すると、ハワイの島々の南岸に、激しく襲いかかるのです。

 

彼女の命が危ない

その時マカケハウは、プロウ渓谷の岩から湧き出る泉にいました。

彼はそこから、眼下に広がる広大なコナの先端部を、じっと見つめました。

 

 -- そこに見えたのは、強風に吹き飛ばされた雨と濃い霧でした。

それらが吹き荒れる暴風と一体となり、パラワイ渓谷を横切って突進して来るではありませんか!

 

この光景を目の当たりにした彼は、きっとこうなる、と思いました。

 

「この嵐は、彼女のいる洞窟の中を、海水で溢(あふ)れさせるだろう。

そして、彼の愛する人の命を奪うだろう。」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) コナ (kona):  

コナとは、ハワイの各島々における風下側の地域を指します。そしてこのお話しの舞台である、マラウエアの洞窟やプウペヘの岩も、ラナイ島の風下側すなわちコナにあります。
なお、コナの反対側である風上側の地域は、コオラウ(koʻo.lau)と呼ばれます。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.

 

 

141 プウペヘの墓:(3) 2人は最高に幸せだった

(前回からの続き)

カルルの豊かな海

彼はこう言いました。
「澄みきったカルルの海へ行こう!

 

そこで一緒に魚を捕(つか)まえよう、カラやアクを釣るんだ。

そしてそこで、僕は槍でカメを突(つ)こう。

 

最愛のあなたよ、僕はあなたを隠すだろう。

-- 永遠にマラウエアの洞穴の中に。

 

 

パラワイの大渓谷

そうでなければ、僕たちはパラワイの大渓谷で一緒に暮らそう。

 

 

そこで、あのウアウ鳥の雛(ひな)を食べるんだ!(N.1)

雛をキーの葉に包んで、甘いパラのシダの根と一緒に、蒸し焼きにしよう(N.2)。

 

山で採れるオヘロが、私の愛をリフレッシュしてくれるだろう。

そして2人でマウナ・レイの、冷たいミネラル・ウォーターを飲むんだ。

 

カオハイの隠れ家

カオハイの雑木林の中に、草を葺(ふ)いた小屋を作って、僕たちの休憩所にしよう。

そして僕たちは、夜空の星たちが輝きを失うまで、ずーっと愛し続けるんだ。」

 

2人は最高に幸せだった

メレはプロウ渓谷における、彼らの愛について物語っています。

彼らはそこで、まぶしく輝くイイヴィ鳥や、深紅色のアパパネを捕まえました(N.3)。

 

ああ、何という甘い喜びでしょう!

 

ワイアケアクアのバナナ林の中で、愛し合う2人はこう信じたのです。

「自分たちよりも美しいものなど、この世の中にあるはずがない。」

 

やがて彼らの目はかすんでいった

しかし暫(しばら)くすると、彼らの目は悲しみによる涙で、かすむようになりました。

やがてこの涙によるかすみが、少しずつひどくなって行きました。

 

そして最後には海水が襲いかかり、彼らの目を永遠に塞ぐことになるのです。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) ウアウ(uau):

ウアウはウワウ(ʻuwaʻu)とも呼ばれる 大形で暗灰褐色の鳥で、ハワイ諸島にのみ生息するハワイの固有種です。かつてのハワイでは、ウアウの雛(ひな)は 大変なご馳走、とされていたそうです。

和名はハワイシロハラミズナギドリ、学名は "Pterodroma sandwichensis"です。

(N.2) 焼く(bake): 

ここで言う「焼く」とは、イム(imu)と呼ばれる地中オーブンを使って、蒸し焼きにすることです。

(N.3) イイヴィ(iiwi)、アパパネ(apapane): 

イイヴィとアパパネは共にハワイミツスイ類の小鳥で、ハワイ諸島にのみ生息する固有種です。

前者のイイヴィは、ハワイミツスイの中でも特に美しいことから、パンフレットなどに紹介される機会が最も多く、和名はベニハワイミツスイ、学名は "Drepanis coccinea"です。

一方、アパパネは、最も生息数が多いので出会う機会も多く、和名はアカハワイミツスイ、学名は "Himatione sanguinea"です。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.

 

 

140 プウペヘの墓:(2) うら若き乙女と若き戦士


(前回からの続き)

プウペへの美しい肌・髪・目

この乙女プウペへは、ハワイに美しく咲き誇る、甘い香りの花のようでした。

 

彼女の肌はつややかな褐色で、しみ1つありませんでした。

「そしてちょうど、ハレアカラ山から昇る鮮やかな太陽、のように光り輝きました。」

 

 

彼女の髪は垂れ下がってカールし、レフナの花輪で束ねられていました。

 

その髪は彼女が走ると、流れるように前方に揺れました。

「それはあたかも、打ち寄せる波の峰が白く砕けて、風の先にスゥーッ!と飛び出すようでした。」

 

そして、星のようにキラキラ輝く目、あのウアウアの美しい娘の目が、

若き戦士の理性を奪ってしまったのでした。

 

涙でかすんだ目

こうして彼はマカケハウ、すなわち「涙でかすんだ目」、 と呼ばれるようになりました。

 

このハワイの勇者は、彼の愛(いと)しい捕虜プウペへの、あまりの美しさに不安でした。

そしてこの地の首長たちが、彼女を奪おうとするのでは?と恐れていました。

 

彼の魂は、彼女の全てを独占し続けようと、強く望んでいたのです。

 

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907):Hawaiian Folk Tales, 16. The Tomb of Puupehe,  A Legend of Lanai,  From "The Hawaiian Gazette", p.181-185.