(前回からの続き)
ア・ペの葉の柄を擦(こす)る
そこで、マウイ・ムアは言いました(*1)。
「話せ、その火はどこにあるんだ?」
アラエは答えました。
「それはア・ペの葉の中です(N.1)。」
これを聞いたマウイ・ムアは、アラエに教えてもらいながら、
ア・ペの葉の柄(え)の部分を、棒切れで擦り始めました。
しかし、火は出て来ませんでした。
グリーン・スティックの中よ!
彼はもう一度、聞きました。
「この火、お前が隠しているこの火は、どこにあるんだ。」
アラエが答えました。
「グリーン・スティックの中よ(N.2)!」
そこで彼はグリーン・スティックを擦りました。
しかし、火のかけらすら得られませんでした。
乾いた木の枝から火を手に入れる
こんな風にして、彼らは色々な木を試(ため)して行きました。
そして最後の最後に、アラエは彼にこう教えました。
「乾いた木の枝を探せば、見つかるよ。」
そして本当に、彼は遂(つい)にやったのでした。
アラエの頭を擦る
しかしマウイ・ムアは、このままでは終わらせません。
彼を騙(だま)し続けた、アラエへの仕返しを始めたのです。
乾いた枝から火を手に入れた彼は、アラエにこう言いました。
「さあそれでは、もう一つ試すことがあるぞ。」
こう言うと、彼はアラエの頭のてっぺんを、ひたすら擦り続けました。
そのため、アラエの頭は血で赤く染まってしまいました(N.3)。
そしてその額(ひたい)は、今でも赤くなったままなのです。
(終わり)
(ノート)
(N.1) ア・ペ(a-pe plant ):
ア・ペは、原文では "a-pe plant (Alocasia macrorrhiza))"と記されています。始めの部分"a-pe"がハワイ語の名称で " 'ape "などと綴られます。
タロ(taro)に似た大きな植物で、ジャイアント・タロともよばれます。地上茎がデンプンを蓄えており、食用にもなりました。和名はインドクワズイモ 、学名は"Alocasia macrorrhizos"です 。
(N.2) グリーン・スティック(green stick):
グリーン・スティックとは、英名"palo verde"、学名Parkinsonia (aculeata)、の樹木を指すと思われます。
英名はスペイン語から来ており、"palo=stick, verde=green" なので、英語表記すると "green stick" になります。"green"は、若い樹皮の色が「緑」であることに由来しています。
(N.3) アラエの頭(alae’s head):
日本で見られる「バン(鷭)」の亜種であるアラエは、アラエ・ウラ( ʻalae ʻula )とも呼ばれます。" ʻula =red (赤)" ですから アラエ・ウラは 「赤いアラエ」です。額板と呼ばれる額(ひたい)の部分が「赤い」ことに由来します。
そして、ハワイにはもう一つのアラエがおり、 アラエ・ケオケオ( ʻalae ke'o.ke'o)、または アラエ・ケア( ʻalae kea) と呼ばれます。" ʻke'o.ke'o = kea = white(白)" なので、こちらは 「白いアラエ」です。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅱ. Exploits of Maui. Rev. A.O. Forbes, Ⅱ. The Origin of Fire, p.33-35.