夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

034 火の起源:(5) アラエの額はなぜ赤い?


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(前回からの続き)

ア・ペの葉の柄を擦(こす)る

そこで、マウイ・ムアは言いました(*1)。

「話せ、その火はどこにあるんだ?」

 

アラエは答えました。

「それはア・ペの葉の中です(N.1)。」

 

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これを聞いたマウイ・ムアは、アラエに教えてもらいながら、

ア・ペの葉の柄(え)の部分を、棒切れで擦り始めました。

 

しかし、火は出て来ませんでした。

 

グリーン・スティックの中よ!

彼はもう一度、聞きました。

「この火、お前が隠しているこの火は、どこにあるんだ。」

 

アラエが答えました。

「グリーン・スティックの中よ(N.2)!」

 

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そこで彼はグリーン・スティックを擦りました。

しかし、火のかけらすら得られませんでした。

 

乾いた木の枝から火を手に入れる

こんな風にして、彼らは色々な木を試(ため)して行きました。

 

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そして最後の最後に、アラエは彼にこう教えました。

「乾いた木の枝を探せば、見つかるよ。」

そして本当に、彼は遂(つい)にやったのでした。

 

アラエの頭を擦る

しかしマウイ・ムアは、このままでは終わらせません。

彼を騙(だま)し続けた、アラエへの仕返しを始めたのです。

 

乾いた枝から火を手に入れた彼は、アラエにこう言いました。

「さあそれでは、もう一つ試すことがあるぞ。」

 

こう言うと、彼はアラエの頭のてっぺんを、ひたすら擦り続けました。

そのため、アラエの頭は血で赤く染まってしまいました(N.3)。

 

そしてその額(ひたい)は、今でも赤くなったままなのです。

 

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(終わり)

 

(ノート)

(N.1) ア・ペ(a-pe plant ):

ア・ペは、原文では "a-pe plant (Alocasia macrorrhiza))"と記されています。始めの部分"a-pe"がハワイ語の名称で " 'ape "などと綴られます。

タロ(taro)に似た大きな植物で、ジャイアント・タロともよばれます。地上茎がデンプンを蓄えており、食用にもなりました。和名はインドクワズイモ 、学名は"Alocasia macrorrhizos"です 。

(N.2) グリーン・スティック(green stick):

グリーン・スティックとは、英名"palo verde"、学名Parkinsonia (aculeata)、の樹木を指すと思われます。

英名はスペイン語から来ており、"palo=stick, verde=green" なので、英語表記すると "green stick" になります。"green"は、若い樹皮の色が「緑」であることに由来しています。

(N.3) アラエの頭(alae’s head):

日本で見られる「バン(鷭)」の亜種であるアラエは、アラエ・ウラ( ʻalae ʻula )とも呼ばれます。" ʻula =red (赤)" ですから アラエ・ウラは 「赤いアラエ」です。額板と呼ばれる額(ひたい)の部分が「赤い」ことに由来します。

そして、ハワイにはもう一つのアラエがおり、 アラエ・ケオケオ( ʻalae ke'o.ke'o)、または アラエ・ケア( ʻalae kea) と呼ばれます。" ʻke'o.ke'o = kea = white(白)" なので、こちらは 「白いアラエ」です。

 

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(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅱ. Exploits of Maui. Rev. A.O. Forbes, Ⅱ. The Origin of Fire, p.33-35.