夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

094 カハラオプナ:(19) キル・ハウスに乗り込む

(前回からの続き)

 

カハラオプナの歌にカウヒが仰天

ある日、カウヒがゲームをしていると、彼の向かいにあの若者が座りました(*1)。

 

そしてカウヒがプレーを終えると、若者はキルを手に取って歌い始めました。

--そうです、カハラオプナが歌った1番目のメレです。

 

これを聞いたカウヒはびっくり仰天!

 

キル・ゲームのルールを破って、若者のプレーを遮(さえぎ)り、こう問いただしました。

「どこで、その歌を覚えたのだ?」

 

彼女は生きている!  いや確かに死んだ!

若者は答えました。

 

「あの有名なマノアの美女、カハラオプナに教わったのです。

彼女は私の妹の友達で、今、私たちの家に来ているのです。」

 

しかしカウヒは知っていました。

-- その女性の守護神であるフクロウが、彼女の遺体を見捨てたことを。

ですから、 彼女は間違いなく死んだ、と確信していました。

 

 

そこでカウヒは、他の奴らは何も知らず嘘をついていると、非難したのでした。

 

カウヒと若者が大喧嘩

こうして2人は互いに怒りを募(つの)らせ、とうとう大喧嘩(おおげんか)になってしまいました。

そして最後は王の命令が下り、敵対する2人が引き離されたのでした。

 

次の日の夜、2人はまたそのキル・ハウスに現われました。

 

カハラオプナの2番目の歌が歌われれると、また昨夜と同じように、怒りに満ちた口論が始まりました。

そして再び、彼らは周囲の人々によって、引き離されたのでした。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

093 カハラオプナ:(18) 策略を練る

(前回からの続き)

カハラオプナの心は変わらない

若者は埋められていた彼女(カハラオプナ)を救い出し、復活させたのです(*1)。

ですから、彼女を花嫁にしたいと思ったのも、当然のことでした。

 

ところが、その女性はこう言って、彼のプロポーズを断ったのでした。

「カウヒが生きている限り、私は彼のもので、他の誰のものでも無いのです。

 

なぜって私の体は、言ってみれば、彼の食物で育ったのですから。

ですから、その食物が彼の物だったように、私の体も彼の物なのです。」

 

カウヒを死刑にするんだ!

そこで若者の兄は、弟にこう助言しました。
「何とかして、カウヒを死刑にするんだ!」

 

そのために彼らはカハラオプナの両親と話し合い、未だカウヒが知らない彼女の最後の復活を、秘密にしておくことにしました。

 

カハラオプナのメレを覚える

それから若者は、カハラオプナが歌ったメレを覚え始めました(N.1)。

そうです、あの死に至る旅の間に、愛する人に向けて歌った、メレというメレを全部です。

 

これらの歌をうまく歌えるようになると、彼は次にキル・ハウス(遊戯・ゲーム場)を探しました(N.2)。

そこは、王や高位の首長たちがゲームを楽しむ家で、カウヒはきっとそこにいるからです。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) メレ(mele):

メレはハワイ語で、日本語で言う 「歌」 全般 および 「詩」 を意味し、英語 の"chant" に対応する語です。

(N.2) キル・ハウス(kilu house):

キル・ハウスとは、キル(kilu) と呼ばれる大変人気のあったゲーム、を行うための家でした(*2)。

この家の中に入って、ゲームを楽しめるのは王族だけ、と決められていました。

現代のボーリングと若干似ていますが、ボールの代わりにキルを使いました。そのキルは、ココナッツ・シェルを割って作りました。

 

 

各プレイヤーは、ゲームを始める前にメレを歌いました。本文中で若者がメレを覚えたのは、これに備えたものです。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

*2) David Malo(1898): Hawaiian Antiquities, translated by N.B.Emerson, Honolulu Hawaiian Gazette, Chapter 42 Sports and Games: Kilu.

 

 

092 カハラオプナ:(17) 若者に救われる

(前回からの続き)

若者がカハラオプナを掘り起こす

さて話は変わりますが、殺された女性(カハラオプナ)の霊は、いつの間にか、通りすがりのある一行に紛れ込んでいました(*1)。

 

その中の一人の若者が、彼女を思う深い同情心に駆られて、霊に教えられた木の所に行きました。

そして土や木の根を取り除いてみると、その体には未だ温(ぬく)もりがありました。

 

彼はそれを、自分のキヘイ(肩掛けスカーフ)で包みました(N.1)。

そしてマイレ、シダ、ショウガですっかり覆(おお)いました。

 

それからこの荷を背負うと、カモイリイリにある自分の家に運びました(N.2)。

 

守護神が彼女を生き返らせる

そこで彼は、彼女の体を兄に預けて、手当てして欲しいと頼みました。

 

兄は彼らの女性の守護神2人に呼びかけて、祈願しました。

この守護神たちに助けられて、彼らは遂に、彼女の体を生き返らせることに成功したのでした。

 

その一連の治療のなかで、彼女は頻繁に、地下水が湧く洞窟に連れて行かれました。

それはマウオキと呼ばれる場所て、彼女はそこでカケレケレ(水治療法)を受けました(N.3)。

 

それ以来、この地下水が湧く洞窟は、「カハラオプナの水」として知られています。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) キヘイ(kihei): 

キヘイとはスカーフ状の四角形の布で、羽織るときはマラソンのタスキのように、片方の肩に斜めにかけて結びます(*2)。

 

 

布はタパ製で、マイレ(maile)のような植物で香り付けされていました。

マイレの他にも、シダ(fern)( 中でも香りがマイレに似ているラウアエ) やショウガ(ginger)も使われました。

 

 

(N.2) カモイリイリ(Kamoiliili):

カモイリイリは、現在は モイリイリ(Moiliili)と呼ばれる地名で、マノア(Manoa)の南側でワイキキ(Waikiki)の北側にあります。また、かつての日系移民が拓いた町、としても知られています

(N.3) マウオキ(Mauoki):

マウオキは、ハワイ大学マウイ校の南東部(セントルイス高校とチャミネード大学付近)の地名だったと推定されます。かつてその地にマウオキ・ヘイアウ(神社)があった、と伝えられるからです(*3)。

 

 

(N.4) カケレケレ(Kakelekele): 

カケレケレ(=カケレ(Kakele))とは、体の表面を擦(こす)るとか、聖油(/聖水)を塗って清めること、を意味するハワイ語です(*4)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.147.

(*3) Hawaiian Archaeological Survey (HAS):/(HOME)/ Site_Name: Mauoki Heiau, Kamoiliili (Des.), State_Site_Number: 50-80-14-062.

(*4) L. Andrews(,Rev.H.H.Parker)(1922): A Dictionary of the Hawaiian Language, Published by the Board, Honolulu,Hawaii., p.249.

 

 

091 カハラオプナ:(16) 人々が一部始終を知る

(前回からの続き)

守護神フクロウの悪戦苦闘

忠実なフクロウはその女性の遺体をめざして、足で土を引っ掻(か)いて、排除しようとしました(*1)。

 

ところが彼の爪に、無数に伸びる大小の木の根が、絡(から)み付いて来ました。

それはカウヒが穴を掘った時に、切り落とさぬように、注意して残した根でした。

 

そして、フクロウが引っ掻けば引っ掻くほど、ますますその根が絡みついて来るのでした。

 

彼女の救出をあきらめる

そのため爪はどれも傷だらけ、おまけに羽はくしゃくしゃでした。

そしてとうとう、フクロウは女性を救うことを、あきらめざるを得なくなったのでした。

 

ひょっとすると、彼は 「彼女を救っても無駄だ。」 と思ったのかも知れません。

何故(なぜ)って、カハラオプナは自分が復活すると必ず、カウヒに知らせてしまうのですから。

 

こうしてフクロウはその場を去り、ワイキキに戻るカウヒの後を追ったのでした。

 

守護神エレパイオが両親のもとに飛ぶ

さて、カウヒの残虐行為の数々を目撃した者が、もう一羽いました。

それがエレパイオ、小さな緑色の鳥で、カハラオプナの一族でした(N.1)(N.2)。

 

 

あのフクロウが、カハラオプナの遺体を見捨てたのを見るや否や、

エレパイオは一目散に、カハウカニとカウアクアヒネのもとへ飛びました(N.3)。

そして、彼らに一部始終を話したのでした。

 

両親たちは何も知らなかった

彼らはカハラオプナがいないことに、気付いていました。

 

しかし召使たちの何人かは、カウヒが訪ねて来たのを知っていました。

さらに、2人が一緒に出かける姿を見ていたのでした。

 

そこで召使いたちは 、「すぐ隣の森の中を、2人で散歩でもしているのだろう。」 と思っていたのでした。

ですから、これまで特に不安に思うことはありませんでした。

 

エレバイオの話に驚愕する

ところが、この小さく可愛らしい鳥の話しを聞いてみると、それは、とてつもなく恐ろしいものでした。

しかもそれは、明確でとても否定し難い疑惑でした。

 

彼らは互いにこう言い合いました。

 

「あんなに愛らしく純真な娘に、そんな残酷なことをするとは! とても正気の沙汰とは思えない。

しかも、その娘は彼の許嫁(いいなずけ)だから、完全に彼のものなのに。」

>(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) エレパイオ(Elepaio): 

エレパイオはハワイで大変人気がある小鳥です。その姿はふっくらと丸く、とても人なつっこい鳥だそうです。早朝から夕方まで大きな声で鳴き続けるさえずりが、エレパイオ(e-le-PAI-o)と聞こえると言われています。

 

 

なお、エレパイオというハワイ語は、生物分類上のハワイヒタキ属(Chasiempis)の小鳥を指しています。 その中で現在、一般的には、ハワイ島に生息する種を"Chasiempis sandwichensis"、オアフ島に生息する種は"Chasiempis ibidis"と呼んでいます。

(N.2) 一族(cousin):

「エレパイオは -- カハラオプナの一族」と記しているので、既出のフクロウと同様に、エレパイオもカハラオプナの家族神(アウマクア)であることがわかります。

(N.3) カハウカニ(Kahaukani), カウアクアヒネ(Kauakuahine):

カハウカニはカハラオプナの父、そしてカウアクアヒネは母です。前者は「マノアの風」、そして後者は「マノアの雨」と呼ばれていました。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

090 カハラオプナ:(15) 4,5度目の死

(前回からの続き)

彼女の歌にカウヒが激怒する

彼が帰り道を歩いていた時、彼女は前と同じように歌を歌いました(*1)。

 

それは彼ら2人が越えて来た山道が、危険で困難だった様子を詳しく語っていました。

そして最後には、未だ真相が解らぬ過(あやま)ちに対して、切に許しを請うのでした。

 

一方、カウヒの方は、殺したはずの彼女の声をまた聞かされて、怒りに身を震わせました。

 

確かに、これまで彼は残酷な行為を繰り返し、女性はその苦痛に耐えてきました。

しかしこのことは、彼の心を和らげるどころか逆に、彼をより一層残忍な男にしてしまいました。

 

そして、元来、彼が持っていたであろう、優しい気持ちのほんのひとかけらすら、奪ってしまったのでした。

 

カハラオプナに永遠の死を!

彼が考えていることは唯一、彼女を永遠に殺してしまうことでした。

そうすれば、彼女に送り続けたポイと魚を無駄にした無念を、いくらかでも晴らせるのです。

 

彼は彼女のところに戻ると、前と同じように、彼についてくるよう命じました。

そして今度は、カリヒ渓谷の最上流にあるキロハナに向けて出発しました。

 

そこに着くと彼は、再び彼女を殺したのでした。

 

しかし、彼女はフクロウのお陰でまた生き返りました。

そして彼女がまた歌い始めたため、彼女が愛する冷酷なカウヒに、彼女の復活が知られてしまいました。

 

大きなコアの木の下に埋める

カウヒは彼女を連れて、今回は小さいが深く険しい峡谷や平原を幾つも横切りました。

 

そして彼らが、カアラ山脈のエヴァ斜面にある、ポハケアに着いた時のことです(N.1)(N.2)。

彼はそこで彼女を殺して、大きなコア(Acacia koa(学名))の木の下に埋めたのでした。

 

 

 

 

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) カアラ山脈(Kaala Mountains): 

ここで言うカアラ山脈は、今では一般的にワイアナエ(Waianae)山脈と呼ばれています。なお、この山脈の最高峰はカアラ山(標高1,227m)で、オアフ島全体の最高峰でもあります。

(N.2) ポハケア(Pohakea): 

ハケアはワイアナエ山脈にある峠(標高660m)で、エヴァ側からこの峠を超えると、その先はこの島の西海岸です。なお、ポハケアはハワイ語で、Pōhā-kea = Pōhā(=Pō.haku) + kea = (英)stone + white = (和)白い石、を意味します(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

(*2) Pukui et al.(1974): Place names of Hawaii, Reviced and Expanded Edition, University of Hawaii Press, p.185.

 

 

089 カハラオプナ:(14) 2,3度目の死

(前回からの続き)

カウヒの一撃が再び彼女を襲う

このカハラオプナの問に、カウヒは一言も答えませんでした(*1)。

それどころか、ハラの木の枝で再び彼女を殴ったのでした。

 

 

そして前の時と同じように、彼女はすぐに死んでしまいました。

 

彼は彼女が倒れた場所の近くに穴を掘り、彼女を埋めました。
そしてカケアの尾根の道を通って、ワイキキに向かい始めました(N.1)。

 

すると、彼の姿が見えなくなるかならないうちに、またあのフクロウが現れました。

そして前と同じように、女性の体の汚れを払い取り、生き返らせたのでした。

 

生き返ったカハラオプナは彼に従う

彼女は再び、彼の後について歩きました。


歩きながら彼女は愛の歌を歌い、また愛する彼の怒りを嘆き悲しんで歌いました。

そして、理にかなわぬ疑いを忘れて欲しい、と彼に懇願しました。

 

ワオラニの尾根で彼女を殺す

彼女の声を再び聞いたカウヒは、急いで引き返しました。

そして、彼の後についてくるよう彼女に命じました。

 

彼らはヌウアヌ渓谷のカニアカププに下り、それからワオラニの尾根に移りました(N.2),(N.3)。

 

彼はそこで再び忠実なこの女性を殺し、そして埋めたのでした。

しかし彼女は再び、あのフクロウに助けられて生き返りました。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) カケアの尾根(kakea ridge):

「カケアの尾根」は、マノアとヌウアヌの両渓谷を分かつ尾根で、カケアの丘(Puu kakea)とも呼ばれます。

(N.2) カニアカププ(Kaniakapupu):

カニアカププは、ヌウアヌ渓谷上流にある聖地です。カメハメハ三世はこの地に夏の離宮を建てました。また、かつてはここに農耕の神ロノ(Lono)を祀(まつ)る、ヘイアウがあったとも言われています。

(N.3) ワオラニ(Waolani):

ワオラニの尾根とは、ヌウアヌ渓谷内に突き出た小さな尾根のことです。この尾根に囲まれたワオラニ渓谷は、ハワイで最も神聖な地とも言われています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

 

 

088 カハラオプナ:(13) 尾根の斜面を登る

(前回からの続き)

険しい山の斜面を登る

カウヒはその女性の近くまで上って来ると、自分の後についてくるように命じました(*1)。

 

 

2人は、マノア渓谷とヌウアヌ渓谷を分かつ尾根の、斜面を登って行きました。

この急な山の尾根を登ることは、優しく愛情深く育てられた乙女にとって、大変な重労働でした。

 

ある時は、イバラが絡み合う薮(やぶ)を通り抜けました。

そしてまたある時は、むき出しの岩肌を背にしながら、揺れ動く蔓(つる)にしがみついたのでした。

 

しかし、カウヒが彼女に救いの手を差し伸べることは、決してありませんでした。

 

それどころか、彼はひたすら進み続けました。

たまに振り返るのは、彼女がついて来るのを確かめる時だけでした。

 

尾根にたどり着く

やがて彼らは分水嶺の頂部、すなわち山の尾根に着きました。

彼女の体は切り傷や打撲のあざだらけで、パーウー(スカート)はボロボロにちぎれていました(N.1)。

 

石の上に座って呼吸を整えると、彼女はカウヒにこう尋ねました。

「私たちはどこに向かっているの?」

(次回に続く)

 

 

(ノート)

(N.1) パーウー(pa-u):

パーウーとは、かつてハワイの女性が着ていた代表的な衣服です。膝丈ぐらいのカパ布5枚程度を腰に巻き付け、スカート状にしたものです(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅺ. Kahalaopuna, Princess of Manoa. Mrs. E.M. Nakuina, p.118-132.

(*2) L. Andrews(,Rev.H.H.Parker)(1922): A Dictionary of the Hawaiian Language, Published by the Board, Honolulu,Hawaii, p.534.