夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

071 カペエペエカウイラ (カナの岩):(14) ヒナを連れ出す

(前回からの続き)

母ヒナが住む家に押し入る

3回目の挑戦で、ニヘウはようやく上陸に成功しました。

そして、そのままハウプの頂上まで登りました。

 

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ヒナが住んでいる家ハレフキに着くと、彼はすぐさま中に入りました。

 

「お前、なぜ入ったんだ? このドアは立入禁止だぞ。」 と問われて、彼はこう答えました。

 

「何故って、あんたさ。あんたがこのドアから入るのを見たからさ。

もしあんたがどこか他から入っていりゃあ、ワシだってこのドアから入らなかったさ。」

 

ニヘウがヒナを連れ出す

これは一体、 何としたことでしょう!

カペエペエカウイラとヒナが、目の前に座って居るではありませんか!

 

ニヘイはいきなりヒナの手をつかむと、こう言いました。

「どうか、私ら2人を行かせて下さい。」

 

そして彼女は立ち上がり、2人は出て行ったのでした。

 

今こそ戦う時ですよ!

彼らが断崖の崖っぷちに向けて進み、あと半分ほどという時、カペエペエカウイラは大声で叫びました。

「これは一体どうしたことだ? あの女性ヒナは行ってしまったのか?」

 

すると、カナの姉妹のモイが、答えて言いました。

 

「もしもあの女性に居て欲しいなら、まさに今がその時です。

さあ、あなたと私で戦うのです。」

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

070 カペエペエカウイラ (カナの岩):(13) ニヘウの上陸

(前回からの続き)

滑って転んだのさ

そうしているうちに、カナはニヘウに命じて、母を捜(さが)しに行かせました(*1)。

「和(なご)やかにやるんだぞ。」 と、カナが言いました。

 

ニヘウはピョンと、岸へ飛び降りました。

しかし、つるつるした岩の上で滑って、転(ころ)んでしまいました。

 

気が動転したニヘウは、大慌(あわ)てでカヌーへ戻りました。

 

これを見たカナが、問い詰めました。

「何だって戻って来たんだ。」 

 

「滑って転んじまった。危うく死ぬところだったぜ。」 とニヘウが答えると、

「さあ、早く行くんだ!」 とカナはニヘウを怒鳴りつけました。

 

カニに砂をかけられたんだ

ツイていないニヘウは、再び岸へ飛び降りました。

すると今度は細長い目のスナガニ(オヒキ・マカロア)が現われ、砂を引っ掻(か)いて舞い上がらせました(N.1)。

 

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そして彼の目はとうとう、砂だらけになってしまいました。

そこで彼は再び、カヌーに戻って行きました

 

「目に入った砂を全部、取ってくれ!」

とニヘウが言うと、彼はそれを海水で洗い落としました。

 

「この馬鹿者が!」 と、カナが怒鳴りつけます。

 

「お前、下なんか見て、一体何を探していたんだ?

スナガニは鳥なんかじゃあないぞ。

 

上を見るんだ! ずうーっと上を見ていれば、砂なんか、入らなかったんだ。

さあ、もう一度行け!」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) オヒキ・マカロア(ohiki-makaloa)):

「オヒキ・マカロア」は、直前の語「長い目のスナガニ」)のハワイ語表記です。

一方、ハワイ語の辞書には、「ハワイ語のオヒキ(ʻō.hiki )はスナガニ(sand-crab)を意味し、その学名は"Ocypode ceratophthalma" であろう。」と記されています(*2)。

これに対応する代表的な英名は "horne-eyed ghost-crab" ですが、"horne-eyed sand-crab" とも呼ばれます。後者を直訳すると「角(ツノ)状の目のスナガニ」です。

日本では沖縄諸島の砂浜に生息し、和名は「ツノメガニ」です。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

(*2) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press, p.278.

 

 

069 カペエペエカウイラ (カナの岩):(12) カヌーが浅瀬に着く

(前回からの続き)

マストが枝にからまる

そしてついに、深い夜の闇の中から、夜明けの兆(きざ)しが見え始めました(*1)。

ちょうどその時、カヌーの帆柱(マスト)が木々の枝に、引っかかり出しました。

 

ニヘウがその枝をめがけて、勢い良く石を投げると見事に命中し、

何本もの枝がガタガタ音を立てて落ちて、マストは自由になりました。

 

そこで彼らはさらに進み続け、やがてカヌーはゆっくりと止まりました。

 

カヌーが浅瀬に着く

するとすぐに、ニヘウが叫びました。

 

「さあ着いたぞ。また眠ってる、おー、カナ。

カヌーを浅瀬に泊めたぞ!」

 

カナは目を覚ますと、まず足もとの感触を確かめました。

するとそこは地面ではなく、まだカヌーの中でした。

 

次に頭上の様子を探ると、マストに雑草が絡(から)まっていました。

そこをグイッと引っ張ると、雑草と土が一緒に落ちて来ました。

 

あのバカでかいカヌーは何だ!

引きちぎれたばかりの雑草から、新鮮な香りが立ち昇り、

カペエペエカウイラが住む家、ハレフキにまで漂って行きました。

 

ハウプの頂上にいた彼の手下たちは、足下の浅瀬に浮かぶカヌーに注目しました。

「あのカヌー、バカでかいぞ!」  と彼らは叫びました。

 

「あー! ありゃオピヒ(貝)をどっさり積んでるぞ。ヒナのためにハワイ島から運んで来たんだ(N.1)。」

と言うのは、オピヒは彼女の大好物だったからです。

 

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(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) オピヒ(Opihi):

オピヒはハワイのアワビとも言われる一枚貝で、波の荒い岩場に生息しています。

昔からハワイの人々の大好物ですが、オピヒ狩りは今でも毎年水死者を出す、危険な作業でもあります。

 

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(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

068 カペエペエカウイラ (カナの岩):(11) 怪物たちを倒す

(前回からの続き)

巨大な怪物がやって来る

しばらくすると、ニヘウが再び大声で呼びました(*1)。
「なんてこった、まただ、ワシら死んじまうぞ。

 

ほらこっちに、バカでかい怪物がやって来るぞ。

もし奴が襲って来たら、ワシらみんなお陀仏だぜ。」

 

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怪物魚の鼻を殴れ

そしてカナが言いました。

 

「さあ、しっかり見るんだぞ。

そしてあの尖(とが)った鼻が、カヌーの船首を横切る瞬間に、お前の杖で殴りかかるんだ。」

 

ニヘウは言われた通りにしました。

すると見て下さい! このバカでかいものは、何と怪物魚だったのです。

 

この怪物魚はカヌーに引き上げられ、彼らみんなの食料になりました。

それはあまりにも大きく重かったので、カヌーの縁は海水面すれすれまで下がりました。

 

大きく口を開いたサメ

彼らは、先へ先へと進み続けました。

 

そして、次に彼らの目に飛び込んで来たのは、大きく開いたサメの口、

その中には鋭い歯が並んでいました。

 

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さて、このハウプには外郭衛兵たちが数多くいました。

上の怪物魚も外郭衛兵でしたが、このサメもまたハウプを守る外郭衛兵でした。

彼は、カナやニヘウたちを待ち受けていたのです。

 

「お前の杖で殴り飛ばせ、」 とカナが命令しました。

ニヘウが殴ると、その鮫は死んでしまいました。

 

巨大な亀

次に彼らが出会ったのは、巨大な亀、これもまたハウプの衛兵でした。

 

眠そうにしていたカナは、また起こされてしまいました。

用心深く見張っていたニヘウが、叫び声を上げたからです。

 

そしてこの亀もまた、魔法の杖の一撃で殺されてしまいました。

 

これらはどれも皆、夜の間の出来事でした。

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

067 カペエペエカウイラ (カナの岩):(10) 暗礁そして水の壁

(前回からの続き)

暗礁に乗り上げる

彼らは先へ先へと進み続けましたが、やがて硬い暗礁に乗り上げ、

カヌーが座礁してしまいました(*1)。

 

するとニヘウが大声で呼びました。

 

「見ろ! あー、あんた眠ってるのか、カナ。

その間に、ワシらみんな溺れ死んじまうぞ。」

 

それに答えて、カナが言います。

 

「 一体、何があるって言うんだ、 ワシらが溺れ死ぬって?

こりゃー、ハウプ湾の暗礁じゃないか?(N.1)

 

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離れるんだ! 暗礁、岩塊、それに海底の深い溝に近づくんじゃないぞ。

さあニヘウよ、おまえの杖『ワカイラニ』で、殴り飛ばすんだ(N.2)。」

 

魔法の杖『ワカイラニ』の威力

ニヘウが彼の杖で暗礁に殴りかかると、岩はバラバラに砕けてしまいました。

今やカヌーは暗礁から脱出し、自由に動けるようになったのです。

 

こうして彼らは、再び目的地を目指して進み始めました。

 

恐ろしい水の壁に襲われる

ところが、見張り番をしていたニヘウが、また大声で叫びました。

「あんた、なぜ眠ってるんだ?  あー、カナよ。

 

ワシらまた、ここで死んじまうぞ。

あんた眠るのが好きだな。ずーっと顔を見なかったぞ!」

 

「なぜ死んじまうんだ?」 と カナが言いました。

 

「見ろ。」とニヘウが答えました。

「恐ろしい水の壁だ。

 

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もしもワシらが突っ切ろうとすれば、頭の上から水の塊が崩れ落ちて来るぜ。

そうなりゃー、ワシら皆殺しにされちまうぜ。」

 

するとカナが言いました。

「よく見るんだ。あのハウプの暗礁は、もうワシらのはるか後ろだ。

 

暗礁はワシらをぶっ殺そうとしたが、ワシらはそれを通り抜けたんだ。

ワシらの行く手を阻(はば)む殺人鬼どもは、お前の杖で殴り飛ばしてやれ。」

 

魔法の杖が水の壁を割る

そこでニヘイが水の壁に殴りかかると、何と、その壁は真っニつに割れました。

そしてカヌーは無事、そこを通り抜けたのでした。

 

こうして彼らは再び、前と同じように進み始めました。

(次回に続く)

 

(ノート)  

(N.1) ハウプ(Haupu):

ハウプ湾とは、ハウプ岬の前に広がる湾の名称です。そしてハウプ岬の頂上には、カナとニヘウがこれから戦いを挑(いど)む相手、カペエペエカウイラが住んでいます。

(N.2) ワカイラニ(Waka-i-lani):

ワカイラニはニヘウが持っている特別な「杖」の名称(ハワイ語名)です。Hawaiian Legends Indexでは、ワカイラニにカッコ書きで英語を付し "Wakailani (Magic Rod)" としています(*2)。すなわち、ワカイラニは「 魔法の杖」です。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

(*2) Hawaiʻi State Library(2010): Hawaiian Legends Index. 2010 ed.

 

 

066 カペエペエカウイラ (カナの岩):(9) カヌーが出来た

(前回からの続き)

あの灌木を引き抜けるか?

これを聞いカナは、小さな一本の木を指差して、ニヘウにこう言いました。

「お前、あの木を引き抜けるか?」

 

「出来るさ、」 とニヘウは答えました。

 

何故(なぜ)ってそれは、ただの1本の小さな木、だったのですから。

自分なら根こそぎ引き抜ぬける、と彼は信じて疑いませんでした。

 

そんなんじゃあ敵を倒せぬ

ニヘウはその木を引っ張り、次に、勢いをつけて力を込め、一気にぐいっと引き抜こうとしました。

しかし、その木はびくともしませんでした。

 

それを見ていたカナは、からかうように言いました。

「そんなんじゃあ、敵をやっつける事なんか出来んぞ。」

 

カナがカヌーを造る

カナは次に両手を前に伸ばすと、何やら森の中を引っ掻(か)き回していました。

 

そして暫(しばら)くすると、彼は片方の手に、一艘(そう)のカヌーを持っていました。

さらに少し後には、彼の反対側の手から、もう一艘のカヌーが現われました。

 

この良く似た一対のカヌーは、「カウムエリ」と名付けられました。

 

彼はそれらのカヌーを岸辺に降ろして、パドルを取り付けました。

そして14人の漕手(こぎて)を雇い入れました。

 

こうして彼らは、カペエペエカウイラと戦うための、旅に出たのでした。

 

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(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

065 カペエペエカウイラ (カナの岩):(8) カナを味方につける

(前回からの続き)

体を温めてから話して下さい

それから、カナはこの老人(ハカラニレオ)に言いました(*1)。

 

「さあ、まずはこの火で、あなたの体を乾かしなさい。

そして暖まったら、あなたの身に何が起きたのか話して下さい。」

 

老人は言われた通りにしました。

十分に暖まると、彼を襲った悲痛な出来事について、カナに語りました。

 

カナが奮(ふる)い立つ

それを聞いてカナが言いました。

 

「ワシの人生のほとんどは、もう終わってしまった。

今はもう、ただ死を待っているだけだ。

 

ところが、そのワシがだ、ほら見てくれ!

遂に、天下無双のワシに相応(ふさわ)しい、強敵を見つけたぞ。」

 

カナは即座にハカラニレオの言い分を認め、彼に加勢することにしました。

 

ニヘウのカヌー造り

そこで長い舟旅に備えてカヌーを造るよう、弟のニヘウに命じました。

ニヘウは辛い作業に懸命に取り組みましたが、可愛そうなことに、上手く行きませんでした。

 

やけになった彼は、カナを怒鳴りつけ激しく非難しました。

 

「あんたがワシに命じた作業は、「仕事」なんて呼べる代物(しろもの)じゃあねえ。

そいつはもう、奴隷をこき使うような、過酷な苦役だ!

 

あんたはそこの隠居所で、のんびり暮らしてるが、

ワシが汗水流して造ったカヌーを、その足で壊してるんだぞ。」

(次回に続く)

 

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(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.