(前回からの続き)
ハカラニレオがやって来る
と言うことで、彼ら2人は出かけました(*1)。
しかし、ニヘウは父の先に進み出ると、そのままどんどん走り続けました。
そして、ウリが育てた男・カナに、こう伝えました(N.1)。
「見て! あそこにハカラニレオがやって来るよ。妻を奪(と)られたんだ。
ワシらはもう、みんなヘトヘトだ。」
「彼はどこだ?」 と、カナが尋ねました。
「ほら、そこだよ。ちょうど今、着いた所だ。」
恐ろしい目に後ずさりする
カナは視線を上げ、じっと家の外を見つめました。
その激しく燃え上がる目に、ハカラニレオは怯(おび)え、後ずさりしました。
そこでニヘウが言いました。
「ワシらの父親を睨(にら)みつける前に、なぜ少し待てなかったんだ?
ほら見なよ! あんたは彼を驚かせちまったんだ。
だから彼は後ずさりしたじゃないか。」
大粒の涙が降り注ぐ
そこでカナは家の中にいながら、自分の手を彼の前まで差し伸べました。
そして老人から離れたまま、しっかりと彼を捕えて手元に引き寄せ、膝の上に座らせました。
それからカナは、涙を流して泣いたのでした。
すると生意気にも、ニヘウがこう言いました。
「今、あんたは泣いてるけど、 その老人にも気を遣ってやれよ。
でないと、ずぶぬれになっちまうぜ。」
しかしカナは、ニヘウにこう命じました。
「ぐずぐずせずに、さあ、火を灯(とも)すんだ。」
と言うのはカナの涙は大粒で、ちょうど平原を水浸(みずびた)しにする、冬の雨のようだったからです。
(次回に続く)
(ノート)
(N.1) ウリが育てた男・カナ(Kana, the foster son of Uli):
カナはニヘウの兄ですから、2人の両親は同じで、父がハカラニレオで母はヒナです。
しかしカナを育てたのは彼の祖母ウリでした。この祖母の名ウリは、人を呪い殺す恐ろしい女神を象徴するものです(*2)。
(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.
(*2) A. Fornander and T.G. Thrum(1916-1917): Fornander collection of Hawaiian antiquities and folk-lore. Memoirs of the Bernice Pauahi Bishop Museum Volume IV, PART Ⅲ. Legend of Kana and Niheu, p.36