夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

064 カペエペエカウイラ (カナの岩):(7) カナを訪ねる

(前回からの続き)

ハカラニレオがやって来る

と言うことで、彼ら2人は出かけました(*1)。

 

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しかし、ニヘウは父の先に進み出ると、そのままどんどん走り続けました。

そして、ウリが育てた男・カナに、こう伝えました(N.1)。

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「見て! あそこにハカラニレオがやって来るよ。妻を奪(と)られたんだ。

ワシらはもう、みんなヘトヘトだ。」

 

「彼はどこだ?」 と、カナが尋ねました。

「ほら、そこだよ。ちょうど今、着いた所だ。」

 

恐ろしい目に後ずさりする

カナは視線を上げ、じっと家の外を見つめました。

その激しく燃え上がる目に、ハカラニレオは怯(おび)え、後ずさりしました。

 

そこでニヘウが言いました。

「ワシらの父親を睨(にら)みつける前に、なぜ少し待てなかったんだ?

 

ほら見なよ! あんたは彼を驚かせちまったんだ。

だから彼は後ずさりしたじゃないか。」

 

大粒の涙が降り注ぐ

そこでカナは家の中にいながら、自分の手を彼の前まで差し伸べました。

そして老人から離れたまま、しっかりと彼を捕えて手元に引き寄せ、膝の上に座らせました。

 

それからカナは、涙を流して泣いたのでした。

すると生意気にも、ニヘウがこう言いました。

 

「今、あんたは泣いてるけど、 その老人にも気を遣ってやれよ。

でないと、ずぶぬれになっちまうぜ。」

 

しかしカナは、ニヘウにこう命じました。

「ぐずぐずせずに、さあ、火を灯(とも)すんだ。」

 

と言うのはカナの涙は大粒で、ちょうど平原を水浸(みずびた)しにする、冬の雨のようだったからです。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) ウリが育てた男・カナ(Kana, the foster son of Uli):

カナはニヘウの兄ですから、2人の両親は同じで、父がハカラニレオで母はヒナです。

しかしカナを育てたのは彼の祖母ウリでした。この祖母の名ウリは、人を呪い殺す恐ろしい女神を象徴するものです(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

(*2) A. Fornander and T.G. Thrum(1916-1917): Fornander collection of Hawaiian antiquities and folk-lore. Memoirs of the Bernice Pauahi Bishop Museum Volume IV, PART Ⅲ. Legend of Kana and Niheu, p.36

 

 

063 カペエペエカウイラ (カナの岩):(6) ニヘウが父を連れ戻す

(前回からの続き)

ニヘウが噂を聞きつける

そうこうするうちに この噂が、『ならず者』の異名を持つ、ニヘウの耳に入りました(*1)。

 

「一人のオヤジが、この道を通って行ったぜ。

そいつは誰か出来る奴、そいつの妻を取り返せる勇者、を探していたよ。」

 

ニヘウは尋ねました。

「そのオヤジ、ワシのオヤジはどこにいるんだ?」

 

しかし、その返事 はこうでした。

「島の奥の方に行っちまったよ。」

 

年老いた父を連れ戻す

「よーし、オヤジに追いついてやる。逃がすものか!」 とニヘウが言いました。

そして行く手を塞(ふさ)ぐ木々を踏み倒しながら、彼はその老人の後を追いました 。

 

一方、老人はひたすら進み続けるも、遂に疲れ果てて、気を失いそうになりました。

 

ニヘウが老人に追いついたのは、ちょうどその時でした。

こうして彼は、老人を彼の家へ連れ戻したのでした。

 

なぜひたすら進んだのですか?

ニヘウは彼に尋ねました。

「一体全体、何だって先へ先へと進んだのですか?

---  ニヘウの家にも来ないで。」

 

「何だって、だと? 全く!」  と老人が応じました。

「決まってだろ! いなくなった、お前の母さんを取り返そうとしてるんだ。」

 

ウリが育てた男を訪ねましょう

それから老人は、英雄たちに話した時のように、一つずつ説明していきました。

そして話を聞き終えたニヘウは、こう言いました。 

 

「あー、お父さん。お父さんの妻を取り返すのは難しそうだ、と心配です。

とは言え、『ウリが育てた男』を訪ねて、島の奥地へ行ってみましょう。」

 

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(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

062 カペエペエカウイラ (カナの岩):(5) 英雄にも頼れない

(前回からの続き)

ニウロイヒキに会う

こみ上げる悲しみを露(あら)わに、ハカラニレオはさらに進みました(*1)。

そしてやって来たのは、あの有名なニウロイヒキの所でした。

 

彼は前の時と同じように、ニウロイヒキの問いに答えながら、

これまでの経緯(いきさつ)を説明しました。

 

しかしニウロイヒキの答えは、こうでした。

 

「そりゃー、まさに絶望的だぜ。

よく見るんだ! あのハウプはめっちゃ高いんだぞ。」

 

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カウルと会う

そこでハカラニレオは再び、もっとパワフルな男を見つけようと、あちこち探し回りました。

そして3番目に会った有名な男、それがカウルでした。

 

ハカラニレオは前の時のように、尋ねられては答えて事の次第を話しました。

 

するとカウルは自分のパワーを見せつけようとして、一つの川をひっ掴(つか)むと、

その流れを捕らえ堰(せ)き止めてしまいました。

 

しかし、ハカラニレオは悲しげな声で言いました。

「まだまだパワーが足りない。」

 

ロノカエホと会う

目に涙を溢(あふ)れさせながら、ひたすら勇者を探し続けたハカラニレオは、やがて4番目の英雄の所にやって来ました。

その英雄の名はロノカエホです(N.1)。

 

しかし、やはりここでも、これまでと同じことでした。

このロノカエホもまた、ハカラニレオを満足させるには、ほど遠い男だったのです。

 

もうお終(しま)いだ

彼が知る「最高の勇者たち」は、この4人で全てでした。

それなのに4人が4人共、揃(そろ)って彼の期待を裏切ったのでした。

 

もうこれでお終いでした。

彼は悲しそうに、山の森の方角に向きを変えて、家に戻ろうとしました。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) 英雄(hero):

ハカラニレオは次々と英雄たちを訪(たず)ね、これまでに全部で4人、すなわちカマララワル、 ニウロイヒキ、カウル、そしてロノカエホと会っています。

彼らはいずれも、クプア(Kupua) もしくは 半神(demi-god) とも呼ばれる、超自然的な存在(supernatural entities)です(*2)。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

(*2) Martha Beckwith(1970): Hawaiian mythology, Mok.33 The Kana Legend, (c) Forbes version, p.466.

 

 

061 カペエペエカウイラ (カナの岩):(4) カマララワルと石

(前回からの続き)

カマララワルに出会う

それ以来、彼は妻を取り戻せそうな、パワフルな人を探して、あちこち出かけました(*1)。

 

あてもなく放浪する中で、彼が最初に訪(たず)ねたのはカマララワル、

力持ちで勇気がある、と評判の男でした。

 

この男は、悲しげで苦しそうな彼を見て、こう尋ねました。

「そんなに涙を流して、どうしたんだね、おっさん?」

 

妻を盗られたんだ

ハカラニレオは答えました。

「うるせえな、おっかさん。盗られたんだ。」

 

「誰に盗られたんだい?」

「カペエペエに盗られたんだ。」

 

「カペエペエって何者だ?」

「カペエペエ・カウイラだ。」

 

「カウイラって何者だ?」

「カウイラ、あの猛者(もさ))だよ、ハウプの。」

 

木の棒なんかだめだ

「となると、おっさん。 あんたは妻を取り返せんだろう。

わしらが木の棒で攻撃したところで、奴の足元のホコリを叩(たた)くだけだ。

 

しかも奴が木の棒で反撃すれば、そいつがわしらの頭を直撃するぞ。

ほら見ろ! ハウプは滅法(めっぽう)高いんだ。」

 

石を投げるんだ

さてこのカマララワルは、石を投げる力の凄(すご)さで知られていました。

何と彼の体そのものが、片面は石で出来ていて、残りの片面だけが生身の体でした。

 

そこで彼は試しに、大きな石を掴(つか)むと、上に向けて放り投げました。

 

石はどんどん上って行き、遂に大空に突き当たりました。

そして今度は、再び大地に向けて落ち始めました。

 

これ見た彼は、石で出来た側の体を、落ちて来る石に向けました。

すると、石が激突した彼の体は、ガタガタと音を立てたのでした。

 

この様子をじっと見ていたハカラニレオは、悲しそうに言いました。

「もっと強くなきゃ!」

 

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(次回に続く)

 

(注記)
(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

060 カペエペエカウイラ (カナの岩):(3) 嘆き悲しむヒナの夫

(前回からの続き)

島の反対側に住む人々を集める

この知らせがカペエペエカウイラに届けられると、彼はすぐさま島の反対側に使者を送りました(*1)。

ケオネクイナからカラマウラまでの地域の、全ての人々を招集するためです(N.1)。

 

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というのは、もう私たちは知っているように、彼は毛深い男でしたから、

その体中をおおう醜い毛を、取り除かないといけなかったのです。

 

2人はハウプの頂上に住み始める

ということで、人々がすべて到着すると、カペエペエカウイラは横になりました。

そこで人々は仕事に取りかかり、毛という毛が全て抜き取られるまで続けたのでした。

 

こうして、彼はヒナを妻に娶(めと)りました

そして彼ら2人は、ハウプの頂上に一緒に住んだのでした。

 

嘆き悲しむヒナの夫

かわいそうにもヒナの夫、ハカラニレオは伴侶を失って嘆き悲しみました。

 --- 冬の長い夜も、そして夏のスコールが襲う夜も、いつも一緒だったのですから。

 

かと言って彼には、彼女を取り戻すことも出来ませんでした。

なぜならハウプの尾根は、天空まで伸びていたのですから。

 

彼は彼女を失った不幸を嘆き悲しみながら、

激しい苦悩に襲われ、ホコリにまみれて転がりました。

そして、背中の後ろで両手を組んだのでした。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) ケオネクイナ(Keonekuina)、カラマウラ(Kalamaula):

ケオネクイナとカラマウラは、共にアフプアア(かつての土地区分)の名称で、モロカイ島の南岸に位置していました。

前者は島の東寄りですが後者は島の中央付近にあり、両者は20kmほど離れています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

059 カペエペエカウイラ (カナの岩):(2) あなたの妻になりましょう

(前回からの続き)

この伝説は、次のように伝えられています(*1)。

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ペレクヌ渓谷にヒナがやって来た

ケアホレは父、ヒイアカ・ノホラエは母、そしてカペエペエカウイラは息子でした。

このカペエペエカウイラは毛深い男で、ハウプの尾根に住んでいました。

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その昔、ハカラニレオと彼の妻ヒナ、すなわちカナの母がやって来て、ペレクヌ渓谷に住み始めました。

そうです、ハウプの尾根の東側にあるあの渓谷です。

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カペエペエカウイラが使者を送る

カペエペエカウイラは、ヒナ、すなわちカラヒキの美しい娘がやって来た、という噂を耳にしました。

そこで彼は、子供たちを使いに出して、彼女を連れて来させようとました。

 

子供たちはヒナの所へ行き、彼女にこう言いました。

 

「私達の王家の父が、あなたを妻にしたいと強く望んでいます。

そこで私達はこうして、あなたを迎えに来たのです。」

 

あなたの妻になりましょう

「え! 私に何を望むんですって?」 と彼女が言いました。

「妻になって欲しんです。」 と彼らが答えました。

 

こう告げられると、カラヒキの美しい娘は喜び、こう答えました。

 

「あなた方の王家の父のもとに戻りなさい。

そして、私がこう言っている、と伝えなさい。

 

『あなたを夫にしてあげましょう。そして私は妻になりましょう。』」

(次回に続く)

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

 

 

058 カペエペエカウイラ (カナの岩):(1) モロカイ島北岸のハウプ

(新しいお話しの始め)

モロカイ島北岸の断崖と渓谷

モロカイ島北側の海岸には、黒い岩が切り立つ断崖絶壁があります(*1)(N.1)(N.2)。

それは 島の東端から始まって30Km近く続き、高さは240mから600mまで変化しています。

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海と対峙(/たいじ)しつつ延びる、この広大な絶壁を遮(さえぎ)るのは、 4つのロマン溢(あふ)れる渓谷だけです。

それが、ペレクヌ、プアアハウヌイ、ワイラウ、そしてワイコルの各渓谷です。

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2つの渓谷を分かつハウプ岬

ペレクヌ渓谷とワイコル渓谷の間には、力強く鋭いハウプ岬が突き出し、両渓谷を分かつ尾根を成しています。

そしてこの岬はどこか、刃先を上に向けた斧頭(ふとう)、を思わせる所があります。

 

岬の先にハウプの岩が並ぶ

海の中では、この岬と一直線に並んで、海底から30から40個の棒状の岩が突き出しています。

 

その一部が突如として、深く青い海から海面上に現われたのが、ハウプの岩です。

それは3,4個の鋭い針状の岩から成り、高さは6mから30mの範囲で変化しています。

 

ここそが、カペエペエカウイラの伝説の縁(ゆかり)の地なのです。

 

これらの岩たちは、厳(いかめ)しい表情で任務にあたる、番兵のように立っています

そうです。今では 「カラワオ居留地」の名で知られる地域の、東の端に立つあの番兵です(N.3)。

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) 執筆者フォーブス(Rev.A.O.Forbes):  

このお話しの執筆者フォーブスさんはハワイ・モロカイ島で生まれ、米国ワシントン・カレッジ、プリンストン神学校で学びました(*2)。

その後ハワイに戻り、牧師としてハワイ各地で活動し、1888年に亡くなりました。

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(N.2)モロカイ(Molokai)島:

モロカイ島は、ハワイ諸島を構成するの主要8島の一つで、オアフ島マウイ島の間にあります。

島の形状は東西に細長く、東西方向には約60kmありますが、南北方向は約15kmです。

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(N.3)カラワオ居住地(settlement of Kalawao):

カラワオ居住地は、ハンセン病患者を隔離するために、1866年ハワイ王国により設けられました。

当初はモロカイ島のカラウパパ半島東側にありましたが、その後、同半島西側のカラウパパ(Kalaupapa)にも設けらました。

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(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales, Ⅷ. Kapeepeekauila; or, The Rock of Kana. Rev. A.O. Forbes, p.63-73.

(*2) Hawaiian Mission Children's Society(1901):Portraits of American Protestant missionaries to Hawaii, p.96.