夢の国ハワイの昔話

ハワイには長く口承されてきた昔話があります。ここでは、それらを少しずつご紹介していきます。

----- 大 目 次 -----

ハワイの昔話の世界へ

ようこそ !

 

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1. 神 話

(1) マウイの偉業

 1) 太陽を捕まえる (4)

 2) 火の起源 (5)

 

(2) 女神ペレ

 1) ペレと大洪水 (4)

 2) ペレとカハワリ (7)

 

2. 民 話

(1) メネフネ短編集

(2) ヒクとカウェル (12)

(3) カペエペエカウイラ (18)

(4) カハラオプナ (29)

(5) プナホウの泉 (9)

(6) オアフヌイ (13)

 

原典  Thos. G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales.

 

 

159 カアラとカアイアリイ:(13) 父の怒りと決意

(前回からの続き )

カアラの父が嘆く

これを見て、頑丈そうだが白髪混じりの島の男が、泣きながら声を張り上げて訴えました(*1)。

 

「カアラよ、私の子カアラが行ってしまった。

私がオフアを槍で突く漁から帰った時、一体誰が、私の手足の疲れを癒してくれるのだ(N.1)?

 

 

そして、ちょうどあのオロワルの首長のように、私に娘がいなくなったら、誰がタロやパンの木の実をくれると言うのだ(N.2)?

 

ここは、娘をあの首長(カアイアリイ)から、隠さなければいけない。

さもなければ、自分が死ぬことになるだろう。」

 

こうしてカアラの父オプヌイは、悲嘆に暮れてしまいました。

 

父オプヌイの怒りと決意

しかし激しい憎しみが、オプヌイの心を突き動かしました。

 

彼の友人はマウナレイの戦いで、崖の向こうに追いやられたのです。

そして彼自身も、あの虐殺者に服従し媚(こ)びへつらいながら、生きて来たのでした。

 

そこで今度もまた、彼は自らの憎悪の念を心の中に隠すことにしました。

そして娘を救う計画を練り上げ、その中で殺人者の邪魔をして、家族を逃がそうとしたのです。

 

彼は心ひそかに、こう言いました。

「娘を海の中に隠そう。

 

その場所は誰も知らない。

それを知るのは唯一、魚の神々、そして私だけだ。

 

そこでは、永遠(とわ)に鳴り響く砕け波が、カアラの上に押し寄せるであろう。」

 

(次回に続く)

 

(ノート)
(N.1) オフア(ohua):

オフアとは、ヒナレア(hīnālea), フムフム(humuhumu), ウフ(uhu)など、色々な魚の「稚魚」を意味するハワイ語です

そして、上記の魚の中でも特に人気があるフムフム(学名: Rhinecanthus rectangulus)は、2006年にハワイ州の魚に指定されました(*2)。

 


(N.2) オロワル(Olowalu):

このお話しの舞台ラナイ島の東隣には、かつて栄えたマウイ島があります。島の中心は西マウイにあるラハイナ(Lahaina)で、その南東約6kmにあるのがオロワルです。

このオロワルの地は、かつてタロとパンの木の林(の豪華な日陰)で知られていました。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Hawaii Gov.(2006): Hawaii State Legislature 2006 Legislative Session, HB1982 HD2 SD1.

 

 

158 カアラとカアイアリイ:(12) さあ勝利の宴だ

(前回からの続き )

大王がカアイアリイの勝利を宣言する

「よーし!」 と 大王が叫びました(*1)。


「我らの若者(カアイアリイ)は、カネコアのように強いぞ(N.1)。

さあ、我らの娘さん(カアラ)に、彼女が愛する人の手足をもんで、癒してもらおう!

 

彼の皮膚を叩いたり、関節を押えたり、また、背中を揉(も)んだりしてもらおう。

--愛情をこめた握りで、そして、ロミロミのタッチで(N.2)。

 

暫(しばら)くすれば、超豪華な焼き料理が出て来るであろうし、フラ・ダンスや歌も始まるだろう。

そしてこの宴会が終わったら、その時は、彼らを2人だけにしてやろう。」

 

女性たちが歌いヒョウタンを操(あやつ)る

女性たちは1列に並んで、しゃがみ込んでいます。

彼女らはお気に入りの旋律を繰り返して、戦いに勝って愛する人を獲得した者を、褒(ほ)め称(たた)えているのです。

 

右手にはフラのヒョウタンを握り、その中に入っている小石で、カタカタ音を立てています(N.3)。

それから空高く放り投げたり、振り回したり、揺らせたり、掌(てのひら)で叩(たた)いたり、さらにはマットにドンと叩きつけたりします。

 

そして今度は、柔軟に関節を動かして腰を振り回します。

この激しい踊りは、腰を上げたり、ねじったりしながら、また揺らせたり、歌ったりしながら続きます。

 

 

カアラたちが踊り始める

カアラは、若い女性たちの一団と共に立ち上がりました。

こちらは王たちからの贈り物で、大切に庇護(ひご)されています。

 

彼女たちは、花輪をからませた体を揺らせながら、陽の光に輝く腕でポーズをとりました。

そして葉のスカートを手で揺り動かしながら、隠れていたふくよかな大腿(ふともも)を見せました。

 

英雄がカアラを連れ去る

これをじっと見つめていた男たちが、燃え上がります。

炎のように情熱的な眼差しで、今日の英雄カアイアリイが飛ぶように走り、愛するカアラを抱きしめます。

 

そしてこう叫びながら、彼女を連れてその場を去って行きます。

「きみは、ハワイ島コハラの僕の家で、永遠に僕だけのために踊るのだ!」

(次回に続く )


(ノート)

(N.1) カネコア(Kanekoa):

カネコアは、カメハメハ大王(Ⅰ世)の父親であったケオウア(Keoua)の、異母兄弟だったとも言われています(*2)。

(N.2) ロミロミ(Lomilomi):

ロミロミはハワイの伝統的なマッサージで、ハワイアン・マッサージなどとも呼ばれます。指、掌(てのひら)、腕、関節(肘,膝)、足、棒・石などを使って、患部を擦(こす)ったり、押したり、揉(も)んだりします。

(N.3) フラのヒョウタン(hula gourd):

フラのヒョウタンとは、瓢箪(ヒョウタン)で作ったフラ用の楽器(ドラム)を指しています。ハワイ語ではイプ(Ipu)、イプへケ(Ipu heke)などと呼ばれます。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Kapiikauinamoku (Sammy Amalu) (1955): The Story of Hawaiian Royalty. Honolulu Advertiser, Sept.11 - Dec.20, 1955.

 

 

157 カアラとカアイアリイ:(11) マイロウが倒れる

(前回からの続き )

攻撃のチャンスを狙う

そして今や、彼らは両腕を高くかざして、互いに相手を引き寄せ合いながら、満身の力を込めて両手のひらを広げます(*1)。

それはちょうど、筋骨隆々としたカニのハサミが、獲物にぐいっと掴(つか)みかかろうとしているかのようです。

 

彼らは相手に致命的なダメージを与えようと、組み合いに持ち込むチャンスを狙(ねら)っているのです。

 

攻めるマイロウをカアイアリイが捕える

さあ、傷痕(しょうこん)のある幼女絞殺魔が、若き槍の達人の喉(のど)をめがけて、素早く跳躍しました(N.1)。

 

槍の達人は襲いかかる相手の腕をスッと捕えると、一瞬のうちにヘシ曲げて、自らの腕の中に抱え込んでしまいます。

そして間髪(かんはつ)入れずに、致命的な殴打(おうだ)を浴びせて、 敵の肩と腕の骨をへし折ってしまいます。

 

途方に暮れたボーン・ブレイカーは、激怒して残された片手を固く握りしめます。


しかし若者の頑強な両腕は、抑え難い怒りで張り詰めていたので、相手の残る片腕をも捩(ねじ)り折ってしまったのでした。

 

 

血みどろの死体と化す

打ちのめされた残酷者は、両腕をだらりと垂(た)らして逃げに転じます。

しかしすぐさま、若者の憎悪が残酷者に襲いかかり、相手の喉をぐいっとつかみます。

 

そして不運な悪党を押し倒すと、カアラの英雄(カアイアリイ)は、相手の背に膝(ひざ)を押し当てました。

さらにそり返った背骨をしっかりと膝で押さえ込むと、今度はそれを強く引いては、ぐいと押し返し始めました。

 

英雄はこれを背骨の関節群が、ポキッと音を立てて壊れるまで続けたのです。

 

こうして、乙女(おとめ)を襲う恐ろしい絞殺魔(こうさつま)は、骨を(へし)折られた血みどろの死体と化し、マット上にうつ伏せに倒れたのでした。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1)幼女絞殺魔(child-strangler), 槍の達人(spear-man):

幼女絞殺魔とは「マイロウ」を指し、また、槍の達人とは「カアイアリイ」を指しています。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

 

 

156 カアラとカアイアリイ:(10) 決闘が始まる

(前回からの続き )

大王がコウの木の日陰に座る

闘(たたか)いの時が、刻一刻と近づいて来ました(*1)。

 

大王は、葉の生い茂ったコウの木の下に、座りました(N.1) 。

かつてコウの木は、「高貴な木」とされていたのです。

 

 

しかし王族たちがいなくなると共に、かつて彼らの 「日よけ」だったその木も、次第に見られなくなったのでした。

 

2人の勇者がにらみ合う

貝を敷き詰めた滑らかな床の上には、ハラのマットが敷かれていました(N.2)。

マットの上には、四肢むき出しの勇者2人が、マロ一丁で立っていました(N.3)。

 

彼らは互いに、強い欲望と血に飢えて激怒した相手の胸を、熱い嫌悪の眼差しで撃ち抜きました。

そして相手を絞め殺そうと、両腕を思いっきり伸ばしました。

 

殴り合いが始まる

向かい合って立った彼らは、幅広く光沢あるブロンズ色の相手の胸を、互いに、ずっしりと重い握り拳(こぶし)で殴り続けました。

 

またある時は、顔を向き合わせてにこやかに笑いながらも、激しい殺意を感じては、相手を睨(にら)みつけました。

 

相手を威嚇(いかく)する<

それから彼らは、右足を前に出して右腕を高くかざすと、一息ついて鬨(とき)の声を上げます。

 

そして互いに、これまで如何(いか)にして相手に重傷を負わせ、ズタズタに引き裂き、そして殺してきたかを話すのです。

さらには如何にして相手の肉を、獣(けもの)に喰わせてきたかを話します。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) コウ (Kou):

コウの木には、大きな卵型の葉がこんもりと茂るので、強い日差しも遮(さえぎ)られて、木ノ下の空間までは届きません。そこで、かつては日陰を作る目的で、海岸付近や家の周りにコウの木が植えられました。

(N.2) ハラ (hala):

ハラはタコの木属の植物のハワイ語名で、その学名は "Pandanus tectorius"です。

ハラの葉はラウハラ(lauhala)と呼ばれ、これを編んでマットが作られました。また屋根葺き材料として使ったり、籠や帽子を作ったりもされました。

 


(N.3) マロ (malo):

マロはハワイ語で、日本語で言う「ふんどし」のことです。かつてのハワイでは、このマロが男性の通常の装いでした。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

 

 

155 カアラとカアイアリイ:(9) カアラを襲う恐怖と愛

(前回からの続き )

カアラを襲う恐怖

可愛そうな乙女(カアラ)は、もとより残忍な剛腕者も意に介さない人でした(*1)。

 

しかしボーン・ブレーカーと言う、あの恐ろしい名前を聞くと、彼女は両手を組んで高く掲げて、全身で驚きを表わしたのでした。

と言うのも彼女はその男について、色々な噂を伝え聞いていたからです。

 

その男は、ちょうど彼女のように上品な、何人もの乙女たちの息の根を止めて来たのです。

そして激しい憎悪の念に駆られ、力尽きた乙女たちを踏み潰(つぶ)しました。

 

挙げ句の果てに、サメたちに向けて、彼女らを投げ捨てたのでした。

 

カアイアリイを愛す

このようななかで、このラナイ島の乙女はあのハワイ島の若き首長に、恋心を抱いてしまいました。

 

確かに、かつて彼は彼女の島の人々を、槍で突き刺しました。

しかし彼女の心を傷つけたのは、彼の目から放たれる、愛情溢(あふ)れる矢だけでした。

 

彼の方に顔を向けた彼女は、残忍で機敏かつ若々しい、愛(いと)しい人をじっと見つめて、こう言いました。

 

「あー、私のカアイアリイ!

どうか、私を愛する貴方(あなた)の情熱が、戦場での槍の突きと同じくらいに、真剣でありますように!

 

そして私を、あの血生臭い処女喰らい(ボーン・ブレーカー)から救って下さい。

そうすれば私は毎日毎日、貴方のためにイカを捕(と)り、また、カパを叩(たた)きましょう(N.1)。」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) カパ (kapa):

「カパを叩く」とは、カパ布を作るために、その材料である樹皮を叩いて伸ばすことです(*2)。

かつてのハワイでは、あらゆる衣類はカパ布を加工して作られました。そのためカパを叩く作業は、女性の最も重要な仕事の一つでした。そして、たたき棒から出る音は、当時の社会では誰もが知る、お馴染みの音でした。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) Ralph S. Kuykendall(1938): The Hawaiian Kingdom, Vol.1, University of Hawaii Press, p.6.

 

 

154 カアラとカアイアリイ:(8) カアラは決闘で勝ち取れ!

(前回からの続き )

勇猛なカアイアリイ

カアイアリイは、数多くの虐殺者と同じように、見かけは立派(りっぱ)でした(*1)。

彼はライオンのように勇猛な心の持ち主で、肌はライオンのような黄褐色でした(N.1)。

 

カールした眉毛(まゆげ)の後ろからは、浅黒い上品さが放たれていました。

 

小ぶりで強靭(きょうじん)な彼の手は、ある時は敵の喉(のど)を締め上げ、またある時は、愛する人を優しく愛撫(あいぶ)しました。

また彼の目は、ある時は憎悪の炎で満ち、またある時は、愛の炎に満ち溢(あふ)れるのでした。

 

カアラへの激しい愛

そして今、愛の炎が、英雄の顔に一気に血を上らせて、赤く燃え上がらせました。

そこでカアイアリイは、彼が仕える大王にこう願い出ました。

 

「おお、このハワイのあらゆる島々を統治する大王陛下!

 

どうか、この甘い花・カアラを私にお授(さず)け下さい。

私の領土としてお授け下さったあの谷よりも、むしろ 彼女を頂きたいのです。」

 

カアラは決闘で勝ち取れ!

カメハメハ大王は答えて言いました。

 

「このラナイ島に咲くジャスミンの花を、お前に与えたコハラの谷に植えるが良い(N.2)。

 

しかしその娘については、「自分のものだ。」と主張する者がもう一人いるのだ。

そいつは頑強なボーン・ブレイカーで、体に戦いの傷跡があるマイロウと言う男だ(N.3) 。

 

だが、マウナレイで果敢に戦った我が槍の達人よ! 恐れることは何一つ無い、お前は奴と格闘するのだ。

 

そしてその格闘に勝って、彼女を両腕で抱きしめた者に、彼女を家に連れ帰ることを許すとしよう。

そこではきっと、1枚のカパ布が2人を覆うことであろう。」

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) 勇猛な心(lion's heart):

カアイアリイのことを、本文では 「勇猛な心の持ち主(with the lion's heart)」 と記しています。

この "lion's heart"という語は、かつて獅子心王(Lionheart)と称された、イングランド王・リチャード1世(1157-1199) を思い浮かべさせます。彼は在位期間10年の大半を戦争と冒険に明け暮れ、その勇猛さから騎士の模範と讃えられた、当時の英雄でした。

 

 

(N.2) コハラ(Kohala):

かつてハワイの島々は、各々、モク(moku)と呼ばれる複数の地区に分割・統治されていました。

モクはさらに、山頂から海岸に至る山の稜線に囲まれた、多数の谷に分割されて、各々をアフプアア( ahupua'a)と呼んでいました。

その中で、「コハラ」 はハワイ島北西部を占めていた、1つのモクの名称です。

そして本文で言う「コハラの谷」とは、コハラと呼ばれるモクの中にある1つの谷、すなわち1つのアフプアアを指していると考えられます。

 

 


(N.3) ボーン・ブレイカー(bone-breaker):

ハワイにはルア(Lua)と呼ばれる伝統的格闘技があり、その代表的な技(わざ)の一つが 「骨折(bone breaking)」、すなわち相手の骨を折ることです(*2)。

本文で 「ボーン・ブレイカー」と言っているのは、当人がこの技の名手だったことを示しています。

 

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) M.K. Pukui, S.H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.

 

 

153 カアラとカアイアリイ:(7) 二人の出会い

(前回からの続き )

そよ風がカアラのスカートを揺らす

あの「甘い香りの娘」 カアラには、まさか自分が悲惨な目に遭うとは、思いもよりませんでした(*1)。

 

というのは、まるで緑の剣の束のように彼女の腰から垂れ下った、ラーイー(ドラセナ)の長い葉を、遊び心に満ちたそよ風が、さらさらと音を立てて揺らせていたからです(N.1)。

 

 

そして、その葉がねじれたり揺れたりする度(たび)に、柔らかく円熟した体が見え隠れするのでした。

 

カアイアリイの心を奪う

その彼女の魅力が、ある男を惹きつけて、夢中にさせてしまいました。

 

彼は、大王に仕える勇者たちの中の1人でした。

この、彼女の魅力に心を奪われた男こそが、勇敢な若き戦士・カアイアリイでした。

 

血塗られた戦場の勇者

この若者はかつてマウナレイ、あのラナイ島最後の血塗られた戦い、に加わったことがありました。

 

筋骨たくましい両腕で、彼は長い槍を巧みに操(あやつ)りました。

そして逃げ惑(まど)う敵を、そら恐ろしい断崖の天辺(てっぺん)へと追い上げたのです。

 

さらに、追い集められうろたえ怯(おび)える、敵兵たちの悲痛な叫び声にも耳を貸さず、力ずくで長槍を突いては怒鳴(どな)りかかり、彼らを断崖の端へ追い詰めました。

 

そして彼らは遂に、あたかも恐怖に怯(おび)える羊(ひつじ)のように、深くて真っ暗な峡谷に飛び込んで行ったのです。

彼らの遺体は引き裂かれ、ギザギザに尖(とが)った沢山の石が、下方に撒(ま)き散らされました。

(次回に続く)

 

(ノート)

(N.1) ラーイー (la-i or lāʻi) : 

ラーイー は植物の葉のハワイ語名で、その英名はティー・リーフ(Ti reef ) です(*2)。

そして、その植物の英名は "ti plant" で、学名は "Cordyline fruticosa"、和名はセンネンボクです。ハワイ語名は "kī" ですが  "ti(ティー)" と発音する人が多いと言われます。

なお、原文では "la-i(Dracaena)" と記されています。ここで、括弧内の "Dracaena(ドラセナ)" は 、"Cordyline fruticosa" の異名(Synonym)である "Dracaena terminalis" の、前半部分(属名)と考えられます。

 

(注記)

(*1) Thomas G. Thrum(1907): Hawaiian Folk Tales. 15.Kaala and Kaaialii, A Legend of Lanai, W.M. Gibson, p.156-180.

(*2) M.K. Pukui, S.H. Elbert(1986) : Hawaiian Dictionary, Univ. of Hawaii Press.